“心理的安全性を高めたいならまずは1on1”の理由を解説

近年、日本でも注目を集めるようになった「心理的安全性」。

心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)とは、チーム内でほかのメンバーの反応を懸念することなく、誰もが安心して能力や個性を発揮できる職場環境のことを指します。

心理的安全性は成功するチームに欠かせない要素ですが、どのように高めれば良いのかわからないという方もいるでしょう。

そこで、心理的安全性を高める方法として、最初に取り組むことをおすすめしたいのが「1on1(ワン・オン・ワン)」です。

ビジネスシーンにおける「1on1(または1on1ミーティング)」とは、上司と部下、先輩と後輩が、週1回から月1回ほどのペースで定期的に1対1で対話することをいいます。

日本では、ヤフー株式会社が取り入れたことから広まり、1on1自体はすでに導入している。という企業も多いのではないでしょうか。

本記事では、心理的安全性を高めたい企業が増えている理由とともに、「心理的安全性を高めたいならまずは1on1」といえる理由や、1on1の基本的なルール・やり方、“心理的安全性が高まらない1on1”とならないためのポイントなどについて解説します。

1on1の活用によって心理的安全性が向上した2社の事例も紹介していますので、併せて参考にしてください。

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1.なぜ「心理的安全性」を高めたい企業が増えているのか?

ではなぜ、心理的安全性を高めたいと考える企業が増えているのでしょうか。

「心理的安全性」という概念に世界中の企業が注目するようになったきっかけは、米Google社が2012年から2015年までの4年間に行った実証実験「プロジェクトアリストテレス」でした。

このプロジェクトは、Google社内のリサーチチームが、業績の高いチームと低いチームを選定し、メンバーの年齢や性別、メンバー同士の関係性などが、チームの生産性にどのように影響するのかを多角的に調査・分析したものです。

プロジェクトの成果として、生産性の高いチームに共通していた一番重要な要素が「心理的安全性」であることが結論付けられました。また、現代は「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれるように、変化が激しく先行きが不透明な時代です。

想定外の出来事が次々と起こる時代に、企業として成果を出し続けるためには、メンバーの多様な意見や画期的なアイデアが自由闊達にやりとりされる必要があるでしょう。

メンバーがお互いを尊重し、素直に意見をぶつけ合うためには、心理的安全性の確保によって「このような発言・行動をしたら相手にこう思われるのではないか」といった不安をなくす必要があります。

以上のような背景から、日本企業のなかでも、心理的安全性に着目し取り入れる動きが広まっています。

参考:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る

2.1on1が心理的安全性を高める3つの理由

上司と部下、先輩と後輩が定期的に1対1で対話する「1on1」が心理的安全性を高めると考えられるおもな理由には、次の3つがあります。

  • “自分を受け入れてもらえている”という実感が高まる
  • 弱みは補い合えるチームだと気付ける
  • Googleも1on1を実施している

それぞれの理由について、以下で確認していきましょう。

“自分を受け入れてもらえている”という実感が高まる

心理的安全性に関する1on1の最も大きな効果ともいえるのが、“自分を受け入れてもらえている”という実感が高まることです。

1on1では、「傾聴」スキルが重視されています。1on1における「傾聴」とは、部下や後輩の考え・意見に耳・目・心を傾けて、真摯な姿勢で話を聴くことです。

話し方や表情など言葉以外の部分にも注意を払うことで、会話の内容を表面的に理解するだけでなく、相手の気持ちに寄り添い、相手が話したいことを引き出していきます。

このことが、部下や後輩にとっては「自分の話を真剣に聴いてくれている」「自分の考えや意見を受け入れてもらえている」という実感を積み上げていくことになるのです。

これらの実感の繰り返しによって、自分の考えや意見をいつでもいえる状態になるとともに、部下や後輩には「相手のことも受け入れたい」という思いが醸成されていきます。

一人ひとりが「受け入れてもらえる安心感」と「相手を受け入れたい気持ち」を持つようになれば、チーム内の心理的安全性は自然と高まるでしょう。

弱みは補い合えるチームだと気付ける

メンバーが普段、質問がしにくいと感じていたり、高いノルマや競争の成果ばかり重視されていると感じていると、心理的安全性は低くなってしまいます。

そうしたなかで、1on1は「質問や相談はいつでもして良い」と部下や後輩に安心を与えるきっかけとなるでしょう。

また、上司が味方となり、部下や後輩の弱みや課題にどう対処していくかを考える機会となるため、例えミスや失敗をしても、または弱みを見せても助け合えると気付くことができます。

上司との関係においてそのような信頼関係を築ければ、1対1ではなく「チーム」という単位になったときも、心理的安全性を確保できます。

Googleも1on1を実施している

心理的安全性の概念を広めるきっかけを作ったGoogle社も、1on1には心理的安全性を向上させる効果があるとし、1on1を実施しています。

Google社では、2週間に1回の間隔で実施し、前回の1on1から今日までの業務内容や良かったこと、課題やそれに対してサポートできること、今後の働き方、次の1on1までに実施することなどについて話しているそうです。

3.【おさらい】1on1の基本的なルール・やり方

続いては、1on1のルールややり方など、基本をおさらいしていきましょう。

今回ご紹介するポイントは、次の5点です。

  • 定期的に開催する
  • 傾聴と質問を活用する
  • プライバシーを確保できる場所で行う
  • 日時や議題は部下中心に、双方が関わって決める
  • 次回までの課題やTODOを整理する

それぞれのポイントについて、以下で紹介します。

定期的に開催する

1on1は、定期的に継続して行うからこそ意味があります。

週1回から月1回ほどのペースで行うのが一般的ですが、難しければ2か月に1回、3か月に1回でも良いので、定期的に開催することを守りましょう。1on1の1回あたりの時間は30〜60分が目安です。

傾聴と質問を活用する

先に述べたとおり、1on1では何より「傾聴」の姿勢が大切です。

ただし、聞こうと思っても、そもそも相手が話してくれないという場面もあるでしょう。その際には、積極的に質問も取り入れましょう。

「◯◯という考えで合っていますか?」「今取り組んでいる仕事は、あなたにとってどのような意味がありますか?」などと相手が自分で気付きを得られたり、自分の考えを整理できるような質問のしかたが適切です。

プライバシーを確保できる場所で行う

1on1は、どちらかの席や賑やかな場所で行うのではなく、プライバシーを確保できる場所で行ってください。

周りが気になると言いたいことが言えなくなる可能性があり、1on1の効果が薄れてしまいます。

日時や議題は部下中心に、双方が関わって決める

1on1はあくまで部下のための時間です。部下の自主性を尊重するため、1on1の日時や議題は部下中心に決定するとよいでしょう。

とはいえ、部下へ丸投げしてしまうのも好ましくありません。部下が希望する日時や相談したいテーマを優先しつつ、双方がコミュニケーションをとりながら決定してください。

次回までの課題やTODOを整理する

1on1が終了したら、簡単で構わないので振り返りをするとともに、次回の1on1までに実施すべきことなどを一緒に整理・約束しましょう。次回の1on1へのモチベーションになります。

参考:ガイド: マネージャーにコーチングを指導する|re:Work

4.1on1活用で心理的安全性が向上した事例

1on1の活用で、心理的安全性が向上したと考えられる2社の事例を紹介します。

【事例①】デル株式会社

ITソリューションを提供するデルテクノロジーズの中核「デル株式会社」のインサイドセールス(内勤)チームでは、マネージャーとの定期的な1on1ミーティングを実施しています。

強制的ではないものの、全員が2週間〜1か月に1回程度実施しているといい、同チームのマネージャーの一人は、1on1において「業務進捗・新しい挑戦・自己アピール」の3点を必ず聞くようにしているそうです。

面と向かって話す機会があることで、仕事やプライベートで抱える問題もキャッチアップでき、メンバーは「すぐにフォローしてもらえる」という実感が得られる環境になっています。

さらに、この1on1がチームワークの鍵となり、社内全体のコミュニケーション活性化・互いに助け合う雰囲気の醸成にも良い影響を与えています。

同社では、IT未経験からの転職者が多数を占めているのにもかかわらず、離職率はわずか5%未満であり、1on1などの施策による心理的安全性の確保が影響していると考えられるでしょう。

参考:「1on1」がチームワークを生み出す!離職率5%未満、デルのインサイドセールスチーム | SELECK [セレック]

【事例②】きらぼし銀行

きらぼし銀行は、東京都民銀行・八千代銀行・新銀行東京の3行が合併して誕生したという背景から、コミュニケーションを活性化させグループ体制を強化していく必要に迫られていました。

そこで、2019年11月から全正社員を対象に、1か月に1回、30分程度の1on1を導入しています。1on1の基本的なルールに沿って行うのに加え、「部下の人数が10名を超える上司は、自身の代わりにミーティングを実施するサポートメンバーを任命することができる」「事後に『コミュニケーションサーベイ』と称するアンケートを行う」などの要領が特徴です。

これまで実施してきた結果、コミュニケーションサーベイでは、合計91.4%の社員が「1on1が役立っている」と回答しています。さらにその具体的な意見として「月に1回上司に相談できるのは、心理的にとても安心感がある」「意思疎通がしやすくなった」「相手の考えを理解できるようになった」などが挙げられています。

「1on1の時間を確保するのが大変」といった今後の課題もありますが、上記の結果からも、1on1の活用で確実に心理的安全性は高まっているといえるでしょう。

参考:パナソニック、きらぼし銀行が取り組む「1on1」~企業事例|PHP人材開発

5.心理的安全性が上がらないNGな1on1を避ける4つのポイント

最後に、心理的安全性が上がらない“NGな1on1”を避ける、次の4つのポイントを紹介します。

  • 部下の話を最後まで聞くとともに、一方的なアドバイスはしない
  • 部下の発言や行動に評価を下さない
  • 業務の話で終わらないようにする
  • フィードバックも忘れずに行う

部下の話を最後まで聞くとともに、一方的なアドバイスはしない

相手の話を最後まで聞かずに自分の経験則で解釈したうえ、一方的なアドバイスをするのはNGです。部下が課題を抱えている、悩んでいると知って、1on1の場で解決してあげようと思ってしまう気持ちもあるでしょう。

しかし、1on1は「部下のための時間」であり、上司は部下の話を聞くことに注力してください。

部下の発言や行動に評価を下さない

1on1では、部下の考えや意見、実際の行動に対して、評価を下すのは避けましょう。評価しなければならない内容については、評価面談など別の場を設けてください。

業務の話で終わらないようにする

何を話せば良いのかわからなくなってしまい、1on1で終始仕事の話しかしないケースも見受けられます。

業務の話で終わってしまうと、率直な話ができなくなる可能性があり、部下の「自分を受け入れてもらえている」という実感にはつながりにくくなってしまいます。

1on1はお互いの信頼関係を構築するチャンスだと意識し、必ず個人的な話題を盛り込むようにしてください。

フィードバックも忘れずに行う

良好な1on1ができても、やりっぱなしの状態にしてしまうと心理的安全性の向上は期待できなくなってしまいます。

対話の内容が次回以降の1on1につながらなかったり、1on1の内容を上司がすぐに忘れてしまったりといった状況になれば、部下は「話した内容は評価材料に使われているだけなのではないか」「上司は、本当は嫌々1on1をやっているのではないか」「自分は大切にされていないのではないか」などという不信感を抱くでしょう。

1on1の後は簡単に記録を残し、フィードバックを欠かさずに行いましょう。

また、定期的に1on1に対するアンケートを実施し、期待通りの効果が得られているかをチェックするのもおすすめです。

参考:Googleの「最高の上司」がチームの生産性を高めるためにしていること

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6.まとめ

今回は、1on1が心理的安全性を高める理由や、1on1の基本的なルール・やり方、“心理的安全性が高まらない1on1”とならないためのポイントなどを中心に解説しました。

あらためて、記事の内容を振り返ってみましょう。

1on1が心理的安全性を高める理由は、次の3つ

 ・“自分を受け入れてもらえている”という実感が高まる

 ・弱みは補い合えるチームだと気付ける

 ・Googleも1on1を実施している

1on1の基本的なルール・やり方のポイントは、次の5つ

 ・定期的に開催する

 ・傾聴と質問を活用する

 ・プライバシーを確保できる場所で行う

 ・日時や議題は部下中心に、双方が関わって決める

 ・次回までの課題やTODOを整理する

1on1活用で心理的安全性が向上した事例は、次の2つ

 ・デル株式会社

 ・きらぼし銀行

心理的安全性が上がらないNGな1on1を避ける4つのポイント

 ・部下の話を最後まで聞くとともに、一方的なアドバイスはしない

 ・部下の発言や行動に評価を下さない

 ・業務の話で終わらないようにする

 ・フィードバックも忘れずに行う

変化が激しく先行きが不透明なこれからの時代、生き残る会社になるためには心理的安全性は欠かせません。

本記事を参考に、“まずは1on1から”心理的安全性を高める取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

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