
現場でマネジメントを担っているマネージャーの方々は、日々さまざまな課題に悩まされているのではないでしょうか。
マネジメントを成功させやすい環境をつくるうえで、重要なのが「心理的安全性」です。
「心理的安全性」とは、組織のなかでメンバー一人ひとりが、自分の考えや気持ちをいつでも安心して表現できる状態のことをいいます。
本記事では、マネジメントの概要や具体的な内容をあらためて確認するとともに、心理的安全性を醸成することがなぜマネジメントの成功につながるのか、心理的安全性が低いことによるリスク、心理的安全性を高める方法などを解説していきます。
マネージャーなどマネジメントにお悩みの皆様は、ぜひ参考にしてください。
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1.マネジメントとは?
まずは、マネジメントの概要と、具体的な業務内容について確認していきましょう。
マネジメントの概要
「マネジメント(management)」とは、直訳すると「経営」や「管理」などの意味を持つ言葉です。
特に、企業やビジネスにおける「マネジメント」は、「経営管理」や「組織運営」といった意味で広く使われています。
具体的には「組織としての目標達成や成果向上を目指すために、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的・効果的に活用したり、リスク管理を行なったりすること」をマネジメントと表現しているケースが多いでしょう。
この概念は、1973年にアメリカの経営学者であるピーター・ファーディナンド・ドラッカーが刊行した『マネジメント』から生まれたと考えられています。
著書のなかで、ドラッカーは「マネジメント」および「マネージャー」について、次のとおり定義しています。
・ マネジメントとは、組織に成果を上げさせるための道具・機能・期間
・ マネージャーとは、組織の成果に責任を持つ者
また、ドラッカーが考える「マネジメントに求められる役割」は、次の3点です。
- 組織が果たすべき目標やミッションを把握し、達成すること
- 組織で働く人たちが能力を発揮できる自己実現の場を与えて活かすこと
- 社会に貢献すること
マネジメントは、組織の成果を向上させ、組織が持続的に発展していくために必要不可欠なものであるとともに、最終的には社会に貢献することがマネジメントを通じた組織としての責任だといえます。
マネジメントの具体的な内容
管理職には、適切なマネジメントにより、組織としての目標達成を実現することが求められます。
管理職の代表的な業務内容の例として挙げられるのは、次の4点です。
- 部下の動機付けをする
- 育成目標を設定する
- 適切な指導を行う
- 定期的に評価・フィードバックを行う
それぞれの内容について、簡単にご説明します。
部下の動機付けをする
管理職は、部下が能力を発揮しながら仕事に取り組める環境を整える必要があります。
そのため、部下が前向きに仕事に取り組めるような動機付けを行い、仕事に対する部下の意欲を引き出します。
育成目標を設定する
部下をどの方向へ伸ばすのか、部下へ仕事を割り振る前に育成目標を設定します。
その目標に基づき、部下にどの方向へ努力すべきかを理解してもらうことで、部下は能力を発揮しやすくなります。
適切な指導を行う
部下が成長するためには、場面ごとの適切な指導が欠かせません。
精神的なサポートを求めている部下をフォローしたり、業務の進捗で悩んでいる部下にアドバイスをしたりと、部下のキャリアを見据えて自ら成長していけるような指導が大切です。
定期的に評価・フィードバックを行う
管理職と部下が認識を確認し合う意味でも、定期的な評価・フィードバックの場は必要です。
業務内容やその成果を振り返り、評価すべきところ・改善すべきところを共有しましょう。
2.管理職はチームの「心理的安全性」を担保する責任がある
管理職がマネジメントを成功させるためには、チームの「心理的安全性」を担保することが重要です。
以下では、心理的安全性の概要と注目されている背景、心理的安全性の高いチームの特徴やそのメリットについて解説します。
心理的安全性とは?
「心理的安全性(psychological safety)」とは、組織のなかでメンバー一人ひとりが、自分の考えや気持ちをいつでも安心して表現できる状態のことです。
組織行動学の研究者エイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した概念で、心理的安全性は「『このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安全である』という思いが、メンバーの間で共有されている」ことだと定義されています。
関連記事:心理的安全性とは?高める5つの方法とメリットを解説
心理的安全性が注目されている背景
「心理的安全性」という名称ではなかったものの、心理的安全性に似ている概念は古くからありました。
ではなぜ近年、心理的安全性が世界中で注目されるようになったのかというと、その大きなきっかけにはGoogle社の研究結果が挙げられます。
Google社が2012年から2015年までの約4年の歳月を費やして行った、成功し続けるチームについての研究「プロジェクト・アリストテレス」によって、「生産性が高いチームや組織は、心理的安全性が高い」ということが判明しました。
具体的には、心理的安全性の高いチームのメンバーは「離職率が低く、ほかのチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、効果的に働くとマネージャーから評価される機会が2倍多い」という特徴があったといいます。
このプロジェクトの研究結果によって、働き方改革や生産性向上の施策を進めている多くの企業が心理的安全性に注目するようになったのです。
参考:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
心理的安全性の高いチームの特徴やメリット
心理的安全性の高いチームでは、たとえ困難な状況でもポジティブに考え、メンバー同士でポジティブな発言も多く飛び交います。
管理職には、部下が前向きかつ意欲的に仕事に取り組めるような動機付けを行う役割がありますが、心理的安全性が醸成されていれば、すでに前向きかつ意欲的に仕事に取り組みやすい環境が整っていると考えられるでしょう。
また、心理的安全性の高いチームのもう一つの特徴として、「成功したこと」だけでなく、「失敗・ミスしたこと」「課題や問題」などについても話し合う機会が多い点が挙げられます。
これは、上司や同僚の反応を不安に思うことなく、失敗・ミスや課題・問題などについて率直に発言できるためです。
積極的なコミュニケーションにより、自らの成長のため、そしてチームとして成功するためには何が必要かを一人ひとりが考え行動できる組織の状態は、自ら成長していけるような指導が求められるマネジメントにおいても、非常にやりやすい環境といえるでしょう。
以上のことから、職場の心理的安全性を醸成することは、マネジメントを成功させやすくなることにつながると考えられます。
3.心理的安全性が低いことによるリスク
心理的安全性が低いチームでは、メンバーは次の「4つの不安」を抱えやすくなってしまいます。
・ 無知だと思われる不安:気になることがあっても、質問や相談ができない
・ 無能だと思われる不安:自分の失敗を認めない、あるいはミスを報告しない
・ 邪魔をしていると思われる不安:必要な提案や発言ができない
・ ネガティブだと思われる不安:否定的な意見を言えない
このことを前提に、職場の心理的安全性が低いことは、どのようなリスクにつながるのかを確認していきましょう。
従業員のパフォーマンスが低下する
心理的安全性が低いと、チームメンバーは業務内容や人間関係などに関するさまざまな不安を抱えた状態でいるため、業務に集中することができません。
例えば、ミーティングなどで気になることがあっても「こんなこともわからないのか」と相手に思われてしまうことを恐れて質問ができないため、一つの正解にたどり着くまでに時間がかかってしまいます。
また「自分はこのチーム内で拒絶されているのではないか」などと物事を悪く捉えてしまい、業務どころではなくなってしまう可能性もあるかもしれません。
結果として、メンバーのパフォーマンスは低下し、組織・チームとしての業績も低迷してしまうでしょう。
大きなトラブルが頻発するようになる
心理的安全性が低いチームの特徴の一つに「無能だと思われる不安」があります。
これは、自分がミス・失敗したことや欠点をさらけ出すことで、「こんなこともできないのか」と相手に思われてしまう・責められてしまうことを恐れる不安です。
心理的安全性が低いと、チームメンバーは自分が無能だと思われないようにすることばかりを考えてしまい、自分の失敗を認めない、あるいはミスを報告しないといった行動が目立ってきます。
すぐに対処できる些細な問題ならなんとかなるかもしれませんが、そもそも重大なミスがすぐに共有されなかったり、時間が経過してしまい大きなトラブルに発展してしまうといったこともあるでしょう。
大きなトラブルが定期的に起こるようなチームは、心理的安全性を見直す必要があるかもしれません。
コミュニケーションが停滞しチームの知識量が減る
心理的安全性が低いチームでは、チームメンバーは不安を感じているため発言を控えるようになります。
特に、他者の意見とは反対の考えや、創造的なアイデアなどは「自分だけがこのような考えを述べたら邪魔をしていると思われるのではないか」「このようなアイデアは受け入れてもらえないのではないか」と感じてしまうため、発言しにくくなるでしょう。
その結果、コミュニケーションは停滞し、情報交換も必要最低限のものしか行われなくなっていくため、組織・チーム内の知識量は徐々に減ってしまいます。
個人はもちろん、組織・チームとしても成長しにくくなってしまうでしょう。
優秀な人材が流出する
自分の考えや意見を自由に発言できず、能力やスキルを思うように活かすこともできないような心理的安全性が低い組織では、チームメンバーには徐々にストレスが蓄積されていきます。
組織への愛着心も薄れていくため、優秀な人材が流出しやすくなるでしょう。
たとえ離職まではいかなかったとしても、組織への愛着心の薄れ・エンゲージメントの低下は、生産性低下などのマイナスの影響を及ぼします。
4.心理的安全性を高める方法
心理的安全性が低いことによるリスクを回避するため、心理的安全性を高める次の5つの方法を実践してみましょう。
偏りのない発言機会を確保する
発言の目的を共有する
組織の透明性を高める
アサーションを心がける
相手への感謝の姿勢を示す
それぞれのポイントについて、詳しく紹介します。
偏りのない発言機会を確保する
それぞれのメンバーが自由に発言できているように見えても、実は特定の人に発言機会が偏っているケースがあります。
心理的安全性を高めるうえでは、まずは全員が均等に発言機会をもてるようにして、活発な議論を促すことが大切です。
一人ひとりが発言できているか、発言内容は誘導されたものではないか(本当に言いたいことを言えているか)などをチェックしましょう。
発言する目的を共有する
心理的安全性が高いということは、プロジェクトをより良いものにするため・目標を達成するためには、たとえ否定的な意見や対立的な意見でもためらうことなく言い合えるということです。
しかし、ただ発言機会を均等に確保しただけでは、否定的・対立的な意見を述べることには抵抗があるかもしれません。
そこで「言いたいことを言うのは何のためなのか」という発言の目的を全員で共有するようにしましょう。
組織の透明性を高める
自分の述べた意見が最終決定にどのように反映されたのか、またはどのような理由で反映されなかったのかなど、意思決定のプロセスについて透明性を高めたり、評価基準の透明性を高めたりしましょう。
組織としての透明性を高めることは、心理的安全性を確保するだけでなく、「次はこうしてみよう」などとメンバーが考えやすくなるため、メンバーのモチベーション向上にもつながります。
アサーションを心がける
アサーションとは、相手を尊重しながらも、自分の意見や感情を率直かつ対等に伝えるためのコミュニケーション方法です。
「アサーティブ」や「アサーティブネス」などと呼ばれることもあります。
否定的な意見や対立的な意見だとしても、アサーションを心がければ、相手を責めることなく、かつ自分の要求や気持ちを飲み込むことなく適切に表現できるようになります。
このことは、心理的安全性の向上に大いに役立つでしょう。
相手への感謝の姿勢を示す
チーム全体でお互いの成果や行動などを認め合い、実際に感謝の気持ちを言葉にして伝え合うことも重要です。
感謝の姿勢を示すことは、相手を受け入れる姿勢を示すことにもつながります。
おすすめの方法として、まずは、管理職や上司などから積極的に感謝の言葉を伝えるようにしましょう。
立場が上の人が常に感謝の姿勢を示すようになれば、チームとして称賛し合う雰囲気が醸成されやすくなります。
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5.まとめ
今回は、マネジメントの概要や具体的な内容、心理的安全性が低いことによるリスク、心理的安全性を高める方法などを中心に解説しました。
あらためて、記事の内容を振り返ってみましょう。
・マネジメントとは、組織としての目標達成や成果向上を目指すために、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的・効果的に活用したり、リスク管理を行なったりすること
・マネジメントの具体的な内容は、次の4つ
・部下の動機付けをする
・育成目標を設定する
・適切な指導を行う
・定期的に評価・フィードバックを行う
・心理的安全性とは、自分の考えや気持ちをいつでも安心して表現できる組織の状態のこと
・職場の心理的安全性を醸成することにより、マネジメントを成功させやすくなる
・心理的安全性が低いことによるリスクは、次の4つ
・従業員のパフォーマンスが低下する
・大きなトラブルが頻発するようになる
・コミュニケーションが停滞しチームの知識量が減る
・優秀な人材が流出する
・心理的安全性を高める方法は、次の5つ
・偏りのない発言機会を確保する
・発言する目的を共有する
・組織の透明性を高める
・アサーションを心がける
・相手への感謝の姿勢を示す
本記事を参考に、職場の心理的安全性を醸成し、マネジメントを成功させやすい環境づくりをしてみてはいかがでしょうか。