
「ワークライフバランス」という言葉を最近よく耳にするようになりました。
国を挙げて推進しているワークバランスですが、
「何となく意味を理解しているけど、実際のところはよくわからない」
という方も多いのではないでしょうか?
ワークライフバランスは近年の働き方改革とも深い関わりを持っています。
少子高齢化により労働力人口の減少が進む中、社員に働きやすさを提供し、優秀な人材の確保を行うためには、ワークライフバランスの推進が不可欠になっているのです。
「自社で導入するには敷居が高そう」とお考えの方もいると思いますが、企業としての将来を考えた場合、向き合わなくてはならない課題だといえるでしょう。
企業としてのあり方が問われる今、ワークライフバランスの意味や考え方、導入へ向けての取り組み方などをご紹介します。
1 ワークライフバランスとは
ワークライフバランスとは、内閣府によると「生活と仕事の調和」として定義されています。
すべての労働者が「仕事」と、育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動などのプライベートな「仕事以外の生活」との調和をとりながら、両立させる働き方・生き方のことです。
現代社会ではさまざまな理由によって、ワークライフバランスを実現できていないケースが多くあります。
・仕事が安定せず経済的な自立が難しい
・仕事量が多く、疲れやストレスから健康面に影響が懸念される
・家族の介護や育児と仕事との両立が困難
といった悩みや不安を抱えている方が、大勢いるのが実情です。
1−1 「仕事と生活の調和」という意味
先述の通り、ワークライフバランスは「仕事と生活の調和」という意味です。これは、ワークライフバランスを誤解なく読み解くために必要な考え方になります。ワークライフバランスは仕事とプライベートをきっちりと分けるということではありません。
ワークライフバランスとは、仕事とプライベートのバランスが保たれており、お互いに相乗効果を生む状態のことを指すのです。仕事を効率的にこなしつつ、プライベートを家族や自己成長のために活用するという、社員ごとに異なる多様性の実現こそが、ワークライフバランスが取れている状態といえます。
働き方は人生の節目ごとに変化し、年齢や役職も大きく影響します。社員が置かれた状況に合わせて働き方を柔軟に変えられるようにすることが、ワークライフバランス推進の目的なのです。
1−2 ワークライフバランスの歴史
ワークライフバランスの歴史は、1980年代後半のアメリカから始まっています。
アメリカの企業が行った「ワークファミリーバランス」という施策が、現在の日本におけるワークライフバランスの元になっているのです。
1980年代当時のアメリカでは急速な技術革新による産業構造の変化に合わせ、企業が優秀な人材の確保をめざしていました。また、女性の社会進出が進んでいたため、女性社員と企業側の求めるものが一致。企業では育児期間中の優秀な女性を雇用し続けられる施策を行うようになったのです。
女性が仕事と育児などの家庭生活を両立できる仕組みの支援を目的として、ワークファミリーバランスの施策が実施されました。当初は働く女性への保育支援が主な施策でしたが、ワークファミリーバランス施策の範囲は少しずつ拡大され、男性の社員にまで適用されます。
企業は介護支援や生涯学習などを支援する施策を整備した結果、女性のみを対象としたワークファミリーバランスから、すべての社員を対象としたワークライフバランスとへ変化したのです。
日本国内でワークライフバランスの考え方が広まったのは、1990年代以降になってからです。
1−3 働き方改革との関係性
ワークライフバランスの推進と働き方改革は強いつながりがあります。働き方改革とは、少子高齢化による労働力人口の減少や、育児や介護と仕事の両立など、現代社会が抱える問題に対し、多様性のある働き方を選択できる社会の実現をめざすものです。
働き方改革では残業時間に上限を設けるなど、働きすぎる環境を変えることで社員の健康を守ることにつながるため、多様性のある働き方をめざすワークライフバランスの実現に大きく関係しています。
1−4 ワークアズライフという考え方もある
近年、「ワークアズライフ」という考え方が注目を集めています。これは、メディアアーティストであり筑波大学の准教授、企業のCEOなどを務める落合陽一氏によって提唱された考え方です。ワークライフバランスと言葉は似ていますが、その意味は異なっています。
ワークアズライフとは、「仕事とプライベートを分けず、起きている時間は全て仕事であり趣味」という考え方です。
仕事とプライベートを分けて考えるワークライフバランスは、会社員など決められた勤務時間内で働いている人にとって受け入れやすい考え方といえるでしょう。
対して、好きなことを仕事にするという考え方のワークアズライフは、フリーランスなど企業に属さず、働く場所を選ばない人々にマッチしてるといえます。好きなことを仕事にし、勤務時間とプライベートを分けないという考え方は、働き方が多様化するこれからの時代に必要な考え方といえるでしょう。
2 ワークライフバランスの2つの概念
ワークライフバランスは「ファミリー・フレンドリー」と「男女均等推進」という2つの概念によって構成されています。
2−1 ファミリー・フレンドリー
ワークライフバランスという言葉が浸透する前までは、「ファミリー・フレンドリー」という概念が有名でした。ファミリー・フレンドリーとは、「仕事と家族に関係することを両立できるための配慮」のことです。働きながら育児や家族の介護を行う社員に対してうまく仕事と両立できるよう、企業側が環境を整えることを指します。
ファミリー・フレンドリーは子育て支援など、家族を中心にした概念ですが、現代社会において仕事とバランスを取るべきは家庭だけに留まりません。性別や年齢、家族構成に関係なく仕事との調和が取れていなくてはならないという考え方が広まり、ライフワークバランスが主流になりました。
2−2 男女均等推進
「男女均等推進」は、性別による仕事上の差別を無くし、能力を発揮できる均等な場と平等な評価の機会を与えることを意味しています。
これは、1985年に制定された「男女雇用機会均等法」から始まっており、時代と共に内容が改正され、募集・採用、配置・昇進における性別による差別の禁止が追加されています。育休や産休の取得を理由とした解雇の禁止なども盛り込まれました。
女性の社会進出が進む中で、男女による待遇や業務上の格差を是正するという意味も含まれています。男女ともに均等に働ける環境づくりのために欠かせない考え方といえるでしょう。
ワークライフバランスの実現においては、ファミリー・フレンドリーと男女均等推進の考え方が非常に重要です。
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3 日本でワークライフバランスが重視される3つの理由
現代の日本社会でワークライフバランスが重視される主な理由として、少子高齢化の問題があります。
少子高齢化によって労働力人口が減り、女性が労働に参加するための働きやすい環境作りが重視されるようになったのです。女性が育児と仕事を両立できるように、多様性のある働き方の実現がめざされています。
また、高齢者の積極的な就業も求められています。
3−1 1.少子高齢化対策
少子高齢化は国内における非常に大きな問題です。総務省のデータによると、1995年を境に生産年齢人口は減少をはじめており、現役で働ける層がどんどん少なくなっています。2015年の人口は1億2,520万人で、生産年齢人口は7,592万人ですが、次第に減少が進み、2048年には総人口が1億人を割ると推測されています。
労働力人口が減ることで慢性的な人手不足となり、働き手の一人ひとりの負担が増えてしまいます。
業務量の増加により長時間労働が慢性化、それによって健康管理が難しくなり休職や離職が増えてしまうことが懸念されます。仕事が忙しいため育児や介護など、家庭との両立も非常に難しくなるでしょう。
ワークライフバランスの推進によって、労働者が働きやすい企業風土を整え、仕事と家庭を両立できる環境づくりが求められているのです。
参考:総務省・少子高齢化の進行と人口減少社会の到来
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc143210.html
参考:総務省統計局・1.人口 人口減少社会、少子高齢化
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1191.html
3−2 2.女性や高齢者が働きやすい環境づくり
少子高齢化による労働力人口の減少に伴い、女性や高齢者が就業に参加することが不可欠になっています。しかし、女性は出産のタイミングで退職する場合が多くあります。これは、育休など出産後の復帰が制度として整っていない企業がまだまだ多いことを示しています。
また、育児と仕事の両立が難しいという背景もあるのです。そのため、労働環境の見直しによって、多くの女性が働きやすい環境づくりが求められています。
高齢者に対しても同様に、定年後も何らかの形で就業することが求められています。働く意欲を持った高齢者は、長年の経験やスキルを活かして働くことが可能です。
平成26年に実施された内閣府の調べによると、働いている高齢者の約42%が、「働けるうちはいつまでも」と回答。「80歳くらいまで」という回答を含めると、約80%の高齢者が継続して働きたいという意思を持っていることがわかります。
しかし、60歳以上への求人数はまだまだ少ないのが現状です。今後は高齢者の積極的な雇用が課題となっています。
参考:内閣府・平成29年版高齢社会白書(全体版)・高齢者の就業
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_4.html
3−3 3.多様性のある働き方の実現
労働力人口の減少により一人あたりの仕事量が増え、労働時間が増えてしまうという問題が懸念されています。長時間労働は充実したプライベートの実現を妨げる要因になり、肉体的、精神的の疲弊する労働者が増えてしまうことが懸念されます。企業としては、社員の離職率上昇にもつながる問題です。
また、IT化やグローバル化が進んだことで企業間の競争が激化。従来よりも効率化された働き方や、独自の価値を持った企業であることが求められるようになっています。企業としては、人手不足の中で優秀な人材を確保することが課題です。
労働時間の見直しや各種福利厚生の充実など、多様性のある働き方の実現は、優秀な人材に対する大きなアピールポイントにできるのです。
4 ワークライフバランスを推進する4つのメリット(企業側)
ワークライフバランスの推進による恩恵は、企業側にも社員側にも多くのメリットをもたらします。
まずは、企業側の4つのメリットから確認しましょう。
1.人材の確保がしやすくなる 2.離職者を減らせる 3.生産性の向上をめざせる 4.取り組みを外部にPRできる |
4−1 1.人材の確保がしやすくなる
ワークライフバランスの推進により働きやすい企業風土が定着すれば、新規採用における人材の確保がしやすくなるというメリットがあります。
働きやすい環境が整備されている企業という評判が広まれば、新卒者や中途採用者などの新入社員が多く志望してくることが予想されます。メリハリをつけられる働き方と、人生の節目に合わせた働き方の選択ができることは、男女問わず魅力的に映ります。結果として、優秀な人材の目に触れやすくなり、応募が増えることが期待できるのです。
4−2 2.離職者を減らせる
ワークライフバランスが推進されていれば、既存の社員の定着率を高め、離職者を減らすことにつながります。
育休や就業時間の短縮など、柔軟な働き方を選べる企業の場合、女性社員の定着率を高めることが可能です。スキルや経験が蓄積された社員に長く働いてもらえるため、女性管理職の育成にもつながるでしょう。
女性が働きやすい環境を整備することで、男性社員も育休の取得がしやすくなり、若手社員は将来に対しする安心感を持てるようになるため、全体的な定着率向上への相乗効果が期待できます。
4−3 3.生産性の向上をめざせる
企業全体で働き方の改善に取り組むことで、生産性の向上をめざせます。ワークライフバランスの推進によって労働環境の見直しが行われれば、長時間労働の禁止や業務内容の見直しなど、効率的に仕事を進められる環境が整うからです。
メリハリをつけて働ける環境を整えれば社員のモチベーションが上がり、無駄を無くして生産性を高めることが可能です。限られた時間内で効率よく仕事をしてもらうことで、人件費や光熱費などの抑制にもつながります。
4−4 4.取り組みを外部にPRできる
ワークライフバランスの推進は国を挙げて行っているため、自社における取り組みは大きなアピールポイントとなります。東京都の場合は、「ライフ・ワーク・バランス認定企業」を毎年認定しており、選出されれば社内における改善の施策を外部に広くアピールできます。
社員の離職率低下は企業として重要な指標になるため、積極的に開示できる情報となります。
「社員を大切にしている」「働きやすい環境が整っている」「離職率が低いから労働環境がよさそう」といったイメージを、求職者に与えることができるのです。
結果として、優秀な人材の確保が期待できます。
また、新規採用や新入社員の教育にかかるコストを削減できるメリットもあります。
5 ワークライフバランスを推進するメリット(社員側)
続いて、ワークライフバランスの推進による、社員側のメリットを紹介します。
社員が安心して長く働ける環境づくりは、企業にとっても非常に大切な課題です。
1.モチベーションを高く保てる 2.メリハリをつけて仕事ができる 3.子育てや介護に注力できる |
5−1 1.モチベーションを高く保てる
ワークライフバランスの推進により、働きやすい環境が整えられている企業では、社員はモチベーションを高く保てる傾向にあります。
内閣府の調べによると、既婚や独身、男女を問わず、ライフワークバランスが図られていると考える人のほうが、仕事に対する意欲が高い傾向にあることがわかります。
「あなたは、今の仕事に目的意識を持って積極的に取り組んでいますか」への回答として、そう思う、ややそう思うを合計した割合は、「男性:既婚就業」と「男性:独身就業」、「女性:既婚就業」が約60%、「女性:独身就業」が約50%となっています。
仕事とプライベートの両立が可能な働き方ができる環境のほうが、多くの社員にとってモチベーションを高く保てる環境にあるようです。
参考:内閣府・両立支援・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進が企業等に与える影響に関する報告書
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/syosika/houkoku/pdf/work-honbun.pdf
5−2 2.メリハリをつけて仕事ができる
ワークライフバランスが推進されていると、社員が仕事とプライベートを両立しやすく、働きやすい環境の実現が可能です。長時間労働の削減によってメリハリをつけて仕事ができるため、作業効率を高められます。これにより、生産性を高めることができるのです。
多様な働き方を選べるようになることで、仕事へ向けた自主的な取り組みが必要になってきます。労働時間が短くなった分、時間配分を考えながら責任感を持って仕事と向き合えるようになるでしょう。
また、プライベートでは自主的な勉強やセミナーへの参加、ボランティア活動などに従事する時間を増やすことができます。新たな知識や人脈を仕事にも活用できるでしょう。
5−3 3.育児や介護に注力できる
働き方の多様性が生まれることで福利厚生制度の幅が広がり、女性社員の場合は育休の取得がしやすくなります。勤務時間の短縮や自宅での作業など、柔軟な働き方の実施により、育児と仕事の両立が図れます。結果として出産後も離職することなく、長く勤め続けられるようになります。
男女関係なく、家族の介護などが必要になった際にも、リモートを導入することで対応しやすくなるでしょう。ワークライフバランスの推進は、少子高齢化問題の解決にも大きな役割を持っています。
6 ワークライフバランスの導入へ向けた取り組み方
ワークライフバランスの推進は、企業と社員の双方にメリットをもたらします。自社でワークライフバランスの推進を行う場合、以下の取り組みが効果的です。
1.長時間労働の見直し ・勤務時間の短縮 ・各種業務の効率化
2.多様な働き方の導入 ・リモートワークの実施 ・フレックスタイム制の導入
3.福利厚生の整備 ・育児休暇・介護休暇の取得推進 ・教育の機会を設ける |
6−1 1.長時間労働の見直し
長時間労働は社員にとってモチベーションを下げる大きな原因になります。疲労が溜まると作業効率が落ちてしまい、生産性の低下にもつながります。仕事に対するネガティブな感情が強くなると、社員の離職率を高める可能性があります。
長時間労働の見直しを図るには、社員の仕事量を見極めながら業務効率化を進めていく必要があります。
6−1−1 勤務時間の短縮
長時間労働の抑制には、社員一人ひとりの勤務時間を短縮させるのが効果的です。長時間労働が発生する原因を分析し、是正する必要があります。
まずは、業務内容を見直し、適切な配分がされているかを確認しましょう。能力のある社員に対して業務量が集中しているというケースがあります。社員同士の業務量を均等にし、定時までに処理できる業務内容を設定することが重要です。
長時間労働が当たり前にならないように、企業を挙げて残業を減らす方針を打ち出しましょう。管理職から率先して長時間労働をしない取り組みを実施し、部下に浸透させていくのが効果的です。
他にも、以下の施策が有効です。
・ノー残業デーの制定 ・残業前の申請を義務付ける ・早朝勤務の推奨 ・会議の時間の短縮 ・有給休暇の取得の症例 |
また、「短時間正社員」という勤務形態の導入も検討してみましょう。短時間正社員とは労働時間を短縮しながらも、正社員としての評価と待遇を受けられる働き方です。育児や介護と仕事の両立をめざす社員にとって、一つの選択肢になります。
6−1−2 各種業務の効率化
長時間労働の原因となる各種業務の無駄を省きましょう。業務内容の見直しを行い、無駄と考えられる作業は簡略化するか、廃止するなどして効率化を進めます。普段当たり前にこなしている業務が、今の社内で本当に必要なものかどうか、客観的に見極める必要があるでしょう。
社員が日常的に行うワークフローなどは、社内ポータルサイト内に組み込むことで、フローに携わる社員の作業時間短縮が可能です。業務に関わる各種マニュアルも一箇所に格納することで、作業の一元化を図れます。
業務のマニュアル化を進めることで、特定の社員しか対応できない分野を減らせ、作業の分担化を可能にします。
また、社内ポータルサイト内でプロジェクトの進行管理を行えば、進捗状況を客観的に把握しやすくなり、長時間労働が発生しないかを事前に注視することができます。
6−2 2.多様な働き方の導入
ワークライフバランスの推進により、働き方に多様性を持たせることで、多くの社員が自由度の高い柔軟な勤務形態を実現できます。女性社員が出産や育児のタイミングで多様な働き方を選択できることは、休暇明けから継続して仕事を続けられる要因になります。
性別に関係なく、家族の介護が必要になった際にも、周囲の目を気にせず休暇を取得できる企業風土を作り上げることが重要です。
多様な働き方の導入における具体例
ワークライフバランスの導入によって、社員の多様な働き方を実現している企業として、サイボウズ株式会社の事例を紹介します。同社では、「100人いたら100通りの働き方」があると考え、社員が望む働き方の実現に取り組みました。
働き方の変革のために、「制度」「ツール」「風土」の3つの要件を整えています。
制度やツールを活用するのは社員やチーム次第であり、それを認める企業風土が整っていることが、多様な働き方の実現に不可欠であるとの考えからです。
【制度】 ・育児・介護休暇制度 ・ウルトラワーク(在宅勤務制度) ・育自分休暇制度 ・副(複)業許可 ・子連れ出勤制度 など
【ツール】 ・情報共有クラウド ・セキュリティ ・リアルオフィス/バーチャルオフィス など
【風土】 ・「公明正大」 ・「自立と議論」 ・「ルールより目的」
|
サイボウズ株式会社では、ワークライフバランスに配慮した制度の導入やコミュニケーションを活性化させる施策を導入し、離職率を2005年の28%から2018年の5%程度にまで、大幅に減少させています。
参考:サイボウズ株式会社・ワークスタイル
https://cybozu.co.jp/company/work-style/
経験やスキルを身につけた社員を離職させることなく、長期間にわたって勤務を続けてもらうのは、企業にとっても大きなメリットがあります。社員の帰属意識の向上にもつながるでしょう。
6−2−1 リモートワークの実施
社員が職場以外の場所で働ける仕組みを、「リモートワーク」といいます。自宅やコワーキングスペースなどでパソコンを使って仕事ができるなど、自由度の高い働き方が可能です。出勤する必要がないため毎日の通勤時間を削減でき、仕事に集中することができます。
育児や介護をしながら働く社員にとって、在宅勤務できるリモートワークには大きなメリットがあるのです。
勤務場所や時間に囚われずに働けるリモートワークですが、他の社員との意思の疎通が難しくなる側面があります。同じオフィス内でなら口頭でやりとりできる内容も、電話やチャットなどを使用しなければなりません。お互いの意図がきちんと伝わっているかの確認が必要です。
また、社外での作業にあたってセキュリティなど情報面の管理は必須です。事前にしっかりと打ち合わせをして、遠隔で働きながらもスムーズなやりとりができるようにしておきましょう。
6−2−2 フレックスタイム制の導入
自由度の高い働き方の実践として、「フレックスタイム制」の導入があります。フレックスタイム制とは、社員が一定期間内における始業と就業の時刻、労働時間をあらかじめ決めておくことで、フレキシブルな働き方を実現できる制度です。
コアタイムという必ず勤務する時間帯を挟み、フレキシブルタイムという、いつ出退勤してもよい時間帯を設けることで、子供を保育園に送ってからや、早朝の通勤ラッシュを避けて出勤したり、習い事などのために早めに退勤したりすることが可能になります。
繁忙期には多めに働き、落ち着いた時期は早めに退社するなど、社員自ら柔軟性のある働き方を決めることができるのです。
フレックスタイム制の導入においては、社員同士の総労働時間が変わらないため、評価する際に影響が少ない点がメリットです。
注意点としては、社員同士が同じ時間帯に顔を合わせる機会が減るため、コミュニケーション不全に陥らないようにする必要があります。
6−3 3.福利厚生の整備
社員にとって働きやすい環境を整えるのも、ワークライフバランス推進の一環です。社員が状況に合わせて取得できる休暇制度、育児休暇や介護休暇などの整備を行いましょう。社員の自己成長を促すための教育の機会を多く設けることも大切です。
この時に重要なのは、福利厚生を整えただけで終わらせないこと。社員が周囲の目を気にせずに、各種休暇を取得できるような企業風土を整えることが大事です。制度と運用の仕組みをセットで考えることが、福利厚生をうまく活用してもらうためには欠かせません。
6−3−1 育児休暇・介護休暇の取得推進
女性が出産後に同じ職場で継続して働き続ける割合は増加傾向にありますが、女性の第一子出産後の離職率は高いのが現状です。
内閣府による2010年から2014年のデータによると、第1子出産前後に女性が就業続ける割合は53.1%ですが、離職率は46.9%と半数近くなっています。
参考:内閣府・「共同参画」2019年5月号
http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2019/201905/201905_02.html
また、正社員の継続就業率は上昇傾向にありますが、パートなどの非正規として働く場合は継続雇用が難しいという側面があるようです。
企業としては、育児休暇や介護休暇の取得の推進により、女性社員が継続して長く働き続けられる環境の整備が課題であるといえます。非正規雇用の社員に対しても制度を適用できるよう、社内制度を整えるのも大切です。
男性社員の場合は、より育児休暇が取得しにくい現状にあります。制度が整備されていなかったり、評価への影響や周囲からの視線を気にしたりして、取得できないケースが多くあるようです。
6−3−2 教育の機会を設ける
IT化やグローバル化の進展により、時代の変化に柔軟に対応できる人材の活躍が求められています。企業としては、社員に対して教育の機会を与え、スキルアップへ向けて積極的にチャレンジできる企業風土を整えましょう。社員の成長を促すことで、自主的な判断力を養い、定着率を高めるのにつながります。
厚生労働省では、企業が社員に対して職業訓練の実施や自発的な職業能力開発の支援を行った場合、「キャリア形成促進助成金」という制度を活用できるようにしています。キャリア形成促進助成金は、各種訓練にかかる経費や、訓練中に発生する賃金などを助成する制度です。社員の教育を積極的に行いたい場合は、ぜひご活用ください。
参考:厚生労働省:人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
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7 国内の導入企業の事例3社
最後に、ワークライフバランスを推進している3社の導入事例を紹介します。
導入すべき内容や整えるべき制度などは企業規模によって異なりますが、社員の働きやすさを考えたものとして、非常に参考になるでしょう。
7−1 伊藤忠商事株式会社:朝型勤務の実現
大手総合商社である伊藤忠商事株式会社では、他社に先駆けて働き方改革を実施しています。その一環として、2013年から「朝型勤務」を導入。20時以降の勤務を原則禁止し、22時から5時までの深夜勤務を禁止するなど、夜間の残業を無くしたうえで、5時から8時までの早朝勤務に深夜勤務と同様の割増賃金を支給するなど、社員に対して朝型の勤務を推奨しています。
また、8時より前に出勤している社員には軽食を支給するなど、健康管理の視点も取り込んでいます。社員が育児や介護に直面したとき、継続して働き続けられるように、育児休暇など各種制度の充実を図っています。社員だけでなくその上司も巻き込んだ育児休暇取得促進キャンペーンを実施し、2015年から3年間で168人の男性社員が育児休暇を取得しています。
2016年からは妊娠や育児、介護などにより、勤務時間に制約のある社員や通勤が困難な社員に対して在宅勤務制度を適用しています。
伊藤忠商事株式会社では、社員が働きがいを持って長く勤め続けられる環境の整備が進んでいるのです。
参考:伊藤忠商事株式株式会社・社員が活躍できる環境づくり
https://www.itochu.co.jp/ja/csr/employee/working_environment/index.html
7−2 株式会社ジェイティービー:従来の働き方を見直す
大手旅行会社である株式会社ジェイティービーでは、長時間労働になりがちなサービス業のために、組織を挙げてワークライフバランスの実現に取り組みました。
以前は時間外労働が当たり前という風潮があり、社員が個人的な行動で改善できるものではありませんでした。そこで、外部コンサルタントに協力を依頼し、「働き方の見直しプロジェクト」を実施したのです。マネジメント層から意識改革が必要と考え、各店舗の代表者会議でワークライフバランスの重要性を説きました。
長時間労働が問題になっていたチームを分析し、「コミュニケーション不足」や「整理整頓不足」という課題が判明しました。また、ワークライフバランス改善の取り組みを表彰したり、社内報に掲載したりするなど、社員に伝達することで浸透を図りました。
結果として多くのチームで残業時間が削減でき、チーム力の強化による生産性の向上が見られたそうです。
参考:株式会社ジェイティービー・JTBグループのダイバーシティ推進
https://www.jtbcorp.jp/jp/company/about_jtb/diversity/
7−3 株式会社ライフィ:出勤時間を選べるように
東京都が認定する「ライフ・ワーク・バランス認定企業」として、平成30年度の認定企業11社の中から大賞に選ばれた、株式会社ライフィ。ライフ・ワーク・バランス認定企業とは、生活と仕事の調和を実現するための取り組みを行う中小企業を対象にしたものです。
株式会社ライフィでは、2014年に起きた社員の体調不良による入院をきっかけに、「社員を大切にできる会社を目指そう」とライフワークバランスの推進を決意。2015年から導入した週に1回のノー残業デーを発展させ、すべての社員が毎日1時間早く退社できる「短縮労働時間制度」を導入しました。
また、出勤時間を8時30分から10時まで30分刻みで選択できる、「選べる出勤時間制度」も導入し、育児や介護、遠距離から通勤してくる社員への配慮を実施。勤務時間に柔軟性を持たせることで、働きやすい環境を整備しました。結果として、社員の毎月の平均労働時間が約20時間減少したそうです。
2017年には社長の呼びかけにより、「ライフ・ワーク・バランスプロジェクト」が発足。メンバーに選ばれた社員に対しては、通常の仕事量を配慮してプロジェクトに注力できるようにしました。有給休暇の取得率向上や、「気づきBOX」を設置して社員の意見を会議にかけて解決。さまざまな取り組みが功を奏し、2016年と2017年の離職者0を達成しました。
参考:株式会社ライフィ・ライフィが「2018年度 東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」 大賞に選出されましたhttps://lify.co.jp/2018%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%95%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af%e3%83%90%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%b9/
企業規模に関係なく、ワークライフバランス実現のための自発的な取り組みは、自社で推進する際の貴重な判断材料になるでしょう。
8 まとめ
ワークライフバランスとは、「生活と仕事の調和」という意味で、社員が仕事と育児や介護、プライベートを両立し、調和を実現することでした。
「家庭との両立をめざしたい」「プライベートな時間を学習など自己成長に使いたい」といった、さまざまな考え方に適応できる、多様性のある働き方の実現が求められています。
ワークライフバランスの推進が求められる背景としては、少子高齢化問題がありました。
労働力人口の減少によって、女性や高齢者が不自由なく働ける環境づくりが急務となっているのです。
しかし、多くの企業ではまだまだ実現できていない実情があります。
企業としては、ワークライフバランスの推進によって、以下の4つのメリットを享受できます。
1.人材の確保がしやすくなる
2.離職者を減らせる
3.生産性の向上をめざせる
4.取り組みを外部にPRできる
ワークライフバランスの推進には、長時間労働の削減や労働環境の見直しなど、導入のためのコストがかかります。しかし、社員にとって居心地がよく、長く働きたいと思えるような環境づくりは、企業の今後の存続にとっても非常に重要だといえるでしょう。
一度に全社に導入するというのは現実的ではないため、導入企業例を参考にしながら、部署やチーム単位で実践していくのが効果的です。