
ベンチャー企業やスタートアップ企業が成長し企業規模が大きくなるにつれて、少しずつ社員数が増加していきます。ちょうど社員数が30人に差し掛かった時、それまでにはなかったさまざまな問題が溢れ出してきます。
「社員一人ひとりとのコミュニケーションが減ってしまった」
「立ち上げ時からの社員と中途採用した社員の間に、溝があるような気がする」
それは「30人の壁」といわれ、経営者は社内の隅々まで目を配ることが難しくなってくるのです。
当記事では、30人の壁ができる原因と、それを乗り越えるための方法をご紹介します。
1 30人の壁とは
ベンチャー企業やスタートアップ企業を立ち上げ、段々と経営が軌道に乗ってきた頃には、社員数も少しずつ増えてきます。社員が30人前後まで増えた時、多くの企業では30人の壁といわれるさまざまな問題が立ちはだかります。
1−1 集団から組織への変化
企業規模が小さい頃であれば、経営者と親しい仲間たちで運営することができました。しかし、企業が少しずつ成長するにつれて、人材確保のために社員数が増加。新しい社員が入ってくることで、従来のようにメンバー同士の阿吽の呼吸で運営を続けるのが困難になってきます。
社員数が30人に達する頃、「集団」から「組織」への転換を余儀なくされるのです。
1−2 経営層だけのマネジメントが困難に
社員数が増えるにつれて、経営者と社員間のコミュニケーションが取りづらくなっていきます。起業して間もない頃は経営者による属人的な経営と、社員一人ひとりに合わせた個別のマネジメントが成立していましたが、それは少人数だからこそ実現できるものでした。
30人の社員と真摯に向き合うには、どうしても物理的・時間的な制約ができてしまいます。社員の現状や課題点をしっかりと把握することが非常に難しくなってしまうのです。
30人の壁は、経営者だけでマネジメントを行うことの限界を表す境界線だといえるでしょう。
2 30人の壁が立ちはだかる5つの原因
多くのベンチャー企業やスタートアップ企業において、30人の壁が立ちはだかる原因は何なのでしょうか?
原因として考えられるのは以下の5つです。
1.社員数の増加 2.コミュニケーションが難しくなる 3.ピラミッド型組織への変化 4.初期メンバーと中途採用者との隔たり 5.社員の方向性がバラバラに |
順番に解説します。
2−1 1.社員数の増加
先述の通り、企業が成長するにつれて業務の幅が広がり、より多くの社員を採用することになります。社員数が増えると業務上の役割分担が可能になりますが、お互いにどんな仕事をしているかわかりにくくなるなど、メンバー間の理解度が下がるという弊害があります。
結果として、次のような問題が発生してくるのです。
・社員とのコミュニケーションが希薄になる
・社員同士による意見の対立
・従来通りのマネジメントが困難になる
異なる価値観を持つ社員同士が同じ組織内に増えるため、避けては取れない問題となります。
2−2 2.コミュニケーションが難しくなる
社員数が増えることで、一人ひとりとコミュニケーションを取るのが難しくなります。
社員が「どんな仕事をしているのか」「仕事上の悩みを抱えているか」など、少人数の時には把握できていたことも、人数が増えるにしたがってコミュニケーション不足に陥り、経営者一人で全て理解しておくのが非常に難しくなってきます。
トップダウン化した組織の中では、経営者一人だけで十分にマネジメントすることができなくなってしまうのです。結果として、社員の不満や意識の変化に気づくのが遅れ、離職率が高まる可能性があります。
2−3 3.ピラミッド型組織への変化
社員数の増加によって組織の形も変化します。起業間もない頃は社員数が少なく、気心が知れた仲のメンバーも多いため、経営者がマネジメントを行うフラットな組織であることが可能でした。
しかし、社員数が増えると経営者がすべての社員に対してマネジメントを行うことが難しくなります。対応策として多くの企業ではマネジメント層を立てて、ピラミッド型の組織に変化させていきます。
これにより、社員の意見は中間のマネジメント層を通して経営者に伝わるようになりますが、うまく伝達ができていないと経営層まで社員の意見が届かずに、トップダウン式の組織になりがちです。
2−4 4.初期メンバーと中途採用者との隔たり
企業規模が大きくなると、新たな分野への挑戦や新技術の導入へ向けて、知識やスキルを持つ人材の確保が優先事項となります。経営者の縁故採用が中心だった社員に加えて、新たに求人サイトなどを経由した中途採用者が増えてきます。多様な人材の確保こそが企業を成長させる原動力になるためです。
しかし、創業時からのメンバーと新入社員との間に考え方の違いなど、軋轢が生まれることもあるでしょう。
経営者の考え方や創業時の熱い想いを理解している古参の社員と、前職での働き方を踏まえた提案をしてくる中途採用の社員との間には、どうしても意識の差が発生しがちです。経営者としては企業の成長のために最適な判断を下す必要がありますが、多様な意見をまとめるのには多くの苦労がつきまといます。
2−5 5.社員の方向性がバラバラに
さまざまな考え方を持つ社員が増えるのは、多様な価値観を生むきっかけになります。企業を更なる成長に導くためには、避けては通れない道です。しかし先述の通り、創業間もない頃を支えてきた古参の社員と新しく入った社員との間に、どうしても考え方の違いが生じてしまいます。
新しい人材が増えたために社内の雰囲気が変わることを、快く思わない社員もいるでしょう。
また、古くからいる社員同士でも、企業の成長と共に目標や考え方に相違が出てきてしまうのです。以前は企業の将来について熱く語り合っていたような深い関係性も、砕けてしまう可能性があるのです。
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3 30人の壁を乗り越えるための4つのポイント
企業の成長にとって避けられない存在である30人の壁。
無事に乗り越えていくためには、次の4つの施策を取るのが効果的です。
1.理念やビジョンを浸透させる 2.適宜マネジメント担当者を立てる 3.バックオフィスの設立 4.評価制度の整備 |
3−1 1.理念やビジョンを浸透させる
創業時からの社員と中途採用した社員間の意識の統一を図るためには、経営理念や企業のビジョンを浸透させることが重要な意味を持ちます。企業の成長のためにがむしゃらに働いてきた場合は、一度立ち止まって経営理念を再確認し、社員への浸透をめざしてください。
共通する経営理念の浸透により、社員同士の考え方や意識の統一を行いやすくなります。ビジョンがあれば、どのくらいの時期までに目標を実現できるかが明確になるため、社員たちも逆算して求められているものを理解しやすくなるでしょう。
また、人数が増えると社員一人ひとりの行動に目を配ることが難しくなるため、ある程度は社員の自主性に委ねなければならない場面も出てきます。普段から経営理念やビジョンを浸透させていれば、社員が個別に臨機応変な判断を行うこともできるようになるでしょう。
クレドと呼ばれる行動指針をカードにして携帯させるのも効果的です。仕事で困った時や休憩時間などに取り出して見ることで、現場レベルでの判断が必要になった際に、企業の一員として正しい行動を取れるよう意識できるようになるでしょう。
3−2 2.適宜マネジメント担当者を立てる
経営者一人で30人前後の社員全員をマネジメントするのは、非常に難しいといえます。
企業の成長と比例して経営者としての仕事が増えるため、社員へ目を配ることが余計に困難になってしまうのです。
そこで、経営者の代わりにマネジメントを行える人材の育成を行いましょう。企業としての理念とビジョンを共有できる人材をマネジメント層として据えるべきです。起業時からのメンバーを昇格させたり、外部からマネジメント経験のある人材を採用する方法があります。
マネジメント層には人材の育成や人材の評価などを担当してもらいましょう。社員の一ひとりの状態を把握できる体制にするのです。社員の意見がマネジメント層を通して、経営者まで届くような組織であることが理想的だといえます。
社員とともにマネジメント層が成長するのは、今後の更なる社員数増加にも対応できる土台づくりになります。30人の壁を越えても問題なく企業を運営していくには、早い段階でのマネジメント層の擁立と育成が鍵を握っています。
3−3 3.バックオフィスの設立
企業がまだ小さい頃は、経営者が人事や経理などの業務を兼任することができました。しかし、企業規模が大きくなり社員数が増えてくると、そうもいきません。企業として成長していくためには、社員への福利厚生が適切に実施されている必要があるでしょう。
バックオフィスを担当する部署の設立や、スキルを持った人材の育成を行うのが先決です。初期から働いている社員にバックオフィス業務への移動を依頼するか、中途採用による専門のスキルを持った社員に任せるのがよいでしょう。
また、社員が増えることで業務上のトラブルや精神的不調を訴える社員が増えてくることが予想されます。これらが原因による離職者を出さないためにも、人事を担当するバックオフィスの充実をめざしましょう。
3−4 4.評価制度の整備
企業した当初、気心の知れたメンバーと少人数で運営していた頃は簡易的な評価制度でも問題ありませんでしたが、社員数が増えることできちんとした評価制度の整備を急がなくてはならなくなります。
多様な社員が増えたことによる価値観の違いが生まれやすくなるため、基準となる評価制度を整備しておかないと、多くの社員から不満の声が上がるようになってしまうのです。公平性のある評価制度は社員のモチベーションアップにつながり、企業の成長に大きく関わる部分です。
評価制度を整えるにあたって、経営理念やビジョンを踏まえたものにすることで、社員の成長意識を高められるでしょう。
マネジメント層を配置したら部下との間に1on1ミーティングを実施し、社員の考えを把握できるようにしておくのが重要です。社員の帰属意識を高めることで組織力の強化を行い、30人の壁を打ち破って行きましょう。
4 30人の壁の先にある50人・100人の壁とは?
さまざまな企業内努力によって、30人の壁の壁を打ち破ることができたとします。
しかし、その先は平坦な道のりではありません。今度は「50人の壁」や「100人の壁」が立ちはだかっているのです。
4−1 50人の壁の特徴
社員数が50人前後になった時、今度は50人の壁に当たります。ピラミッド型に変化した組織が、更に複雑化していくことで、マネジメント層に機能不全が起こりやすくなるのです。
事業の拡大によって複数の部署が設立され、新入社員も増加します。マネジメント層は増え続ける問題に対し、的確に対処することが求められるのです。プレーヤーとして活躍してきた社員が出世し、マネジメントの役割を担うようになった場合、どのように部下と接すればよいのか迷うケースも多くあります。
経営理念やビジョンをどのようにして全社員に浸透させていくかが、壁を乗り越えるための鍵となってくるため、マネジメント層の活躍が大きな意味を持つのです。
4−2 100人の壁の特徴
企業が成長軌道に乗り、社員数が100人に達した時、新たな100人の壁が現れます。
社員数の増加に伴い多様性が拡大。さまざまな考え方やバックヤードを持った社員たちが企業を支えていくことになります。それを管理するマネジメント層も10人以上に増え、彼らの働きによってうまく組織をまとめていくのが重要です。
経営者は部下の対応を各マネジメント担当者に任せ、企業の方向性の舵取りや、新規事業への対応など、先を見据えた行動に全力を出せるようにしておくとよいでしょう。
また、各部門には高い専門性を持った社員を配置することも重要になります。企業の更なる成長のためには、より専門性の高いスキルを持った人材を増やし、問題解決に当たらなくてはなりません。
営業や開発、人事など、その道のプロフェッショナルを迎え入れましょう。もちろん、初期から活躍している社員が担当するケースもあります。
経営者は経営にのみ注視できる体制を整えることで、100人の壁の先をめざせるようになるのです。
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5 まとめ
経営者や一緒に立ち上げに携わった社員にとって、企業の成長は非常にうれしいものです。
しかし、少人数だった頃は順調に業績を伸ばすことができても、成長にしたがって社員数が増えてくると、30人の壁が立ち塞がります。
1.理念やビジョンを浸透させる
2.適宜マネジメント担当者を立てる
3.バックオフィスの設立
4.評価制度の整備
30人の壁は、上記の施策を取ることで十分に乗り越えられるもの。
企業の軸となる経営理念やビジョンを全社員に浸透させ、各自が自主性を持って業務に励む姿勢を生み出すことで、長期的に成長していける組織づくりをめざしましょう。
そのためには、マネジメントを任せられる管理職の社員の存在が重要になってきます。社内のコミュニケーション不足に陥らないように、マネジメントを行える人材の育成や登用を行う必要があるでしょう。
経営者が経営に集中できるようになることが、企業が次の段階へ進むための鍵を握っているのです。