
「官僚主義とはどのようなものなのだろう?」
「官僚主義の問題点を解決するため、具体的な方法が知りたい」
現在所属している組織が官僚主義で悩んでいる方、もしくは官僚主義的な部分が表出し始め、どうしたら改善できるか悩んでいる方はいらっしゃいませんか?
この記事では、官僚主義とは何かを詳しく解説した後、
- 官僚主義の4つの問題点
- 官僚主義を防ぐためにすべき4つのこと
をご紹介します。官僚主義組織の改善・予防に悩む多くの方に、本記事が少しでもお役に立てますと幸いです。
1.官僚主義とは
官僚主義とは、官僚制的な組織の中で、発生したり定着してしまうことの多い、集団的な行動様式や意識状態のことです。
官僚主義の組織には、以下の特徴が見られます。
◉官僚主義の特徴
- 秘密主義/閉鎖的な組織である。内部情報をオープンにしない
- わずらわしい手続主義/なにごとにも稟議書・上司の承認が必要となる
- 先例踏襲/規則・マニュアルを疑わない
- 画一的で形式的/アイデアやイノベーションを必要としない
- 創意工夫の欠如/マニュアル通りに業務を行うことが推奨されている
- 派閥意識/集団・組織内部の各部署が互いに協力し合うことをしない・権力争いを始める
- 縄張り根性/自分たちが保持する権限や利害にこだわる
- 地位や権利の利用/上司からの命令には絶対に従わせる
官僚主義とほぼ同じような意味で使われる言葉に「大企業病」があります。
主に大企業で見られる非効率的な企業体質のことで、組織が大きくなるにつれ活気がなくなり、上からの指示に従うだけで無難な仕事しかしなくなることを指しますが、官僚主義もまさに同様の状態です。
┗参考:「大企業病とは?自社が当てはまるか確認すべきその5症状と4つの対策」
政党から役所、企業、学校、学生が行うクラブ活動に到るまで、集団組織であればどこでも、官僚主義になる可能性はあります。
1-1.なぜ官僚主義が定着してしまうのか
官僚主義が定着してしまうのはなぜか?それは、官僚主義にも良い部分があるからです。
◉官僚制組織の優れている点
- 規則によって秩序付けられたとおりに物事を進めるのでムダがない
- 上下関係がはっきりと決まっているので司令・命令系統が明確になっている
- 口頭ではなく文章を使って物事を進めていくので正確性が高い(文書主義)
- 専門性が高い人が職務にあたるので、業務が速く進む
規模の大きな組織や、オペレーティブな業務が多い職場では、こうした官僚制主義の優れた点が上手く作用するため、大型の量販店やファストフードチェーンなどにも取り入れられています。官僚制組織を一概に悪とするのではなく、優れた点もあることを認識した上で、自社の官僚主義と向き合うことが大切です。
1-2.官僚主義体質が批判されるのかなぜか
前章で解説した通り、官僚制組織は優れた点も多いのですが、なぜ官僚主義に対して批判的・否定的な説が多いのでしょうか?
それは、官僚制には逆機能があるからです。官僚制の逆機能は、アメリカの社会学者マートンが調査によって発見しました。
本来、目的を達成するための手段であったはずの官僚制が、いつの間にか「官僚制を維持する」ことが目的になってしまうというのが逆機能です。
◉官僚制の逆機能、弱点
- 規則によって秩序付けられていないことはやらないというメンタリティーが生まれる。
- 上下関係に縛られ、上司が間違ったことを言っても指摘・訂正ができない。上司に言われたことは絶対なので、不正にも手を染めてしまう。
- 文書を重視するあまり、手続文書が大量になり、文書に書かれていないことはやらなくてもよいことになる。文書の中身が精査されず、上手に書かれていればOKとなってしまう。
- 専門性が高まる反面、自分が担当している以外は全く分からない。自分が担当していないものはどうでもよくなる。横のつながりが薄くなる。
- 職務を淡々とこなしていく組織なので、突発的なアクシデントに対応できない、イノベーティブなアイデアが生まれにくい。
さらに現代はスピードの時代です。これまでは官僚主義的な時間がかかる仕事の進め方でも間に合っていましたが、
誰もがデジタルツールを利用し、AIが日進月歩で発展している今、仕事のスピードが遅い官僚主義は前時代的で古くさいものと捉える人が増えていることも、官僚主義が批判されている原因でしょう。
1-3.官僚主義体質の企業を変えることは可能なのか
ここまで官僚主義の優れている点、逆機能という問題点について解説をしてきましたが、それでは、根本的に官僚主義体質を変えることは可能なのでしょうか?
組織規模やその組織の歴史などにより一概には言えないのですが、基本的には、官僚主義体質を改善していくことは可能です。
とはいえ、それまで官僚主義で運営されていた組織を急激に変えようとしても上手くいきません。
まずは段階的に、官僚主義のデメリットである逆機能を払拭していく施策を取ることをお勧めします。
2.官僚主義の4つの問題点
ここでは、官僚官僚主義の問題点を4つご紹介します。
- チャレンジを避ける
- 組織の硬直化
- アイデア・イノベーションが生まれない
- 事なかれ主義
お気づきの方もいるかもしれませんが、1章でご紹介した「官僚制阻組織の逆機能」に対応する形で問題が発生します。
2-1. チャレンジを避ける
官僚主義の第一の問題点は、リスクを避けて、チャレンジをしなくなってしまうことです。
言われたことだけをこなし、波風を立てないことが目的になっているので、失敗するリスクのある新たなチャレンジなど、やりたがる人はほとんどいなくなってしまいます。
2-2.組織の硬直化
官僚主義の場合、1人ひとりが自律的に動くのではなく、決められたルールやマニュアルに従って行動することが基本なので、組織の硬直化が起こります。
決裁権や意思決定の権限をもつ上層クラスは、自分たちが出してきた成果に自信があり、自分たちの行動が正解であると考えてしまうため、トップダウンで指示を押し付ける形になりがちです。
それに伴い部下たちは、自ら考え主体的に行動するよりも、指示された業務を完璧にこなすことだけを考えるようになり、自主性や自発性を発揮することがなくなっていきます。
集団・組織内部の各部署が互いに協力し合うことをせに、自分たちが保持する権限や利害にこだわるセクショナリズムにも陥りやすく、外部からの干渉を排除しようとする排他的傾向も強くなります。
2-3. アイデア・イノベーションが生まれない
官僚主義の場合、新しいことに果敢にチャレンジして成果をもぎ取る人よりも、ミスを出すことがなく、上司の指示に従順に従う無難なタイプが出世できる可能性が高くなります。
そのような社内の雰囲気からは新たなアイデアが生まれることはなく、イノベーションも起こりにくくなってしまいます。
2-4.事なかれ主義
失敗しないこと、言われた通り完璧にこなすことが評価される組織には、やがて「事なかれ主義「が発生します。
すると、組織の意思決定やあり方に対し「それは間違っているのではないか?」と思うようなことがあっても、誰も何も言わなくなってしまいます。これは極めて危険で、過去不祥事や大きな事故などを起こした組織では、こうした事なかれ主義が蔓延しているケースが多くあります。
チームの連携・生産性を上げる!成長する組織がもつ「心理的安全性」とは?
3.官僚主義を防ぐためにすべき4つのこと
では、官僚主義を防ぐ、もしくは抜け出すためには、具体的にどうしたらよいのでしょうか?
ここでは、官僚主義の予防・改善に効果があるものとして、以下4つの取り組みをご紹介します。
- 社内制度の改革
- 会議を減らす、現場への権限委譲
- 一人ひとり仕事の貢献を表彰する
- 称賛文化をつくる
3-1.社内の制度改革を進める
官僚主義組織からの脱却を目指すなら、社内制度改革から取り組むとよいでしょう。
官僚主義を抜け出すには、1人ひとりが自主・自律的に働ける組織風土をつくれるかどうかがカギを握るのですが、例えば、無言のうちに上の意向を汲み取り従うのが当たり前になっている組織で
「我が社はこれから変わります!1人ひとりが自主・自律的に働ける風通しのよい組織を目指します!」といった号令を掛けても、恐らく誰も動き出しはしないでしょう。
硬直化した組織を動かすには、号令や意思表明だけではなく、強制的に従業員の意識や行動を変えるキッカケが必要なのです。社内制度改革は、従業員が動かざるを得ない状況をつくり出すことができるため、そういった意味でとても強力なキッカケです。
制度の見直しは、以下にあげる3つが取り組みやすく効果も期待できおすすめです。
■多様な働き方の導入
フレックスタイムやテレワーク、時短勤務など、個人の自主性・自律性が発揮できる多様な働き方を取り入れることで、
強固な階層型組織を突き崩していくことができます。
■評価制度の見直し
年功序列で給与が上がっていく組織の場合「最低限の仕事をしていればいいや」と考える人が多くなるのは避けられません。
新しいチャレンジや改善が疎ましくなり、波風立てずに仕事を終えることが最上の目的となってしまうのです。このような組織は、先ほども述べましたが「事なかれ主義」を蔓延させ、これが長期的に続くと大きな不正や事故を引き起こす原因となりかねません。
ですので、もしも今、個人の成果やチャレンジを認める制度がないのなら、個人のがんばりをきちんと評価、給与に反映する仕組みを取り入れるべきです。そうすることで、言われた通り無難に仕事をこなす組織から、1人ひとりが力を発揮し、より良い成果を生み出そうとする組織へと変わっていくことができます。
■稟議書(紙と印鑑)の廃止
ボールペン1本購入するにもいちいち稟議書を回して、上司のハンコが揃わないと決済できないといった旧態然とした企業が今も存在しているようですが、官僚主義の弊害の中でも非効率極まるもので、とても嫌われているのが稟議書です。
経営に直結するような非常に重要な事項であれば、上の立場の者が慎重に見極めて決める必要がありますが、現場の判断で決めていいものは、部長・課長・係長・主任など、それぞれに決裁権を持たせて、その人がOKするだけで実行できるようなフローに変えましょう。
また、稟議に必要な書類を減らすためにもIT化を促進し、「紙と印鑑」がなければ決められない文化を廃止しましょう。
3-2.会議を減らす、現場への権限委譲
官僚主義の特徴のひとつとして、非効率な会議が多いことが挙げられます。それに伴って会議資料を揃えたり作成したり、会議の準備に時間がかかるなど、多くのムダと言える業務が発生します。
さらにムダな会議は、時間の浪費になり長時間労働の原因にもなります。
何を決めるために会議を行うのか、会議の目的を明確にすること、複数の人間の意思決定が必要なものは社内チャットツール等を使って敏速に回答を得るなどしてムダな会議を廃止していきましょう。
また、稟議書と同じですが、上司が会議に加わらないと最終決定できないといったことがないように、現場に意思決定の権限を持たせて、上司不在でもスムーズに簡潔な会議ができるようにすることも大切です。
3-3.一人ひとり仕事の貢献を表彰する
個人が組織で力を発揮するための重要な要素として、近年「心理的安全性」が注目を集めています。
「心理的安全性」とは、1人ひとりが、上司部下関係なく自分の考えや意見を素直に言うことができ、間違ったことや反対意見を述べても安全だと感じられる組織の状態を指します。
┗参考:「心理的安全性とは?意見が言い合えるチーム作りの新概念を徹底解説」
小さなことでも挑戦的な行動をとった人、アイデアをたくさん出した人を表彰する機会を設けると、社内に「ちょっとしたことでも意見を出していいし、挑戦したら認めてくれるんだ」というポジティブな雰囲気が生まれ、組織の心理的安全性向上につながります。
いきなり大きなチャレンジをするのは難しいものですが、日々の小さな挑戦が認められ、スモールサクセスを積み重ねることで、次第に大きなチャレンジにも近付いていくことができるようになります。
3-4.称賛文化をつくる
互いの仕事への感謝や称賛を伝え合うコミュニケーションは、従業員同士の関係性の質を高め、組織の雰囲気をポジティブなものに変えます。
サンクスカードなどの取り組みは多くの企業で導入されており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
┗参考:「サンクスカードのデメリットとメリット|導入のおすすめポイント紹介」
関連記事:サンクスカードとは?企業が導入する目的やメリット、事例を紹介
官僚主義下の閉鎖的コミュニケーションから脱却するには、こうした互いの仕事を認め合う「称賛文化」をつくり出すことが大切です。
とはいえ官僚主義組織でいきなり感謝・称賛し合う風土を作ろうといっても、なかなか難しいものです。
そいういった場合には、前述の「サンクスカード」のような手軽に始められる取り組みからスタートしてみるのがよいでしょう。また、従業員同士が日々の仕事の感謝・賞賛の言葉と共に、少額のインセンティブを送りあえるwebサービスなども存在するので、そうしたサービスを導入するのも一つの手です。自然に褒め合う習慣をつけることができます。
チームの連携・生産性を上げる!成長する組織がもつ「心理的安全性」とは?
4.まとめ
官僚主義とは、官僚制的組織の中で、発生したり定着してしまうことが多い、集団的な行動様式や意識状態のことを言います。
官僚制組織は優れた組織ではありますが、反面、人間関係などが硬直した組織になりやすくその弊害も多くあります。
現代社会のような、スピードが重視される時代には、官僚主義はムダに時間をかける厄介なものと捉える人が多くなっています。
ここで、官僚主義を防ぐ4つの方法について復習しておきましょう。
- 社内の制度改革を進める
- 会議を減らして現場に意思決定の権限を持たせる
- 些細なことでも表彰する制度の導入
- 組織内で褒め合う習慣づけ
官僚主義組織を一気に変えることはできませんが、少しずつ改革を進めることで、徐々にオープンで風通しのよい組織へと変わっていくことができます。