
「社内コミュニケーション」何となく大事だとはわかっているけれど、実際それがどの様に、なぜ仕事に影響を及ぼすのか、あなたはきちんと理解できていますか?
社内コミュニケーションの良し悪しは仕事の生産性に大きく影響を与えます。その点をきちんと理解し改善すれば、自社に大きな利益をもたらしてくれます。
アメリカの社会心理学者スタイナーの集団の生産性に関する公式や、個々人の能力が高くてもコミュニケーション不足により力を発揮できなかった組織の事例などが、その相関関係を示しています。
本記事では、社内コミュニケーションと生産性がどう関係するかの解説と合わせて、社内コミュニケーション活性化の方法、各社の取り組み事例なども紹介します。
最後までお読みいただければ、社内コミュニケーション次第で組織は大きく変わり得るのだという確信を持ち、自社でも何かしらの取り組みを始めるべく、すぐにでも動き出したくなっていることでしょう。
1.社内コミュニケーションと組織生産性の関係は見逃されがち
社内コミュニケーション不足は組織の生産性低下を引き起こしますが、多くの人はその点をきちんと認識していません。
なぜなら社内コミュニケーションの良し悪しは「ダイレクトに」数値に繋がるものではないため、コミュニケーション面の課題を感じたとしても仕事自体がひとまず進行していれば、すぐに解決しなくても大丈夫と放置されてしまうことが多いからです。
例えばよくある「会議で発言やアイディアを出す人が少ない」という状況。
会議での社員の積極性は、
・一人一人の業務、組織へのコミットメント度合い
・普段から気軽に発言できる雰囲気があるかどうか
等に左右されるため、その組織のコミュニケーション状態がよく現れる場面と言えます。
そのため、会議でアイデアを出す人が少ないという状況は「社内コミュニケーションが不足している可能性が高い」のですが、これは即座に大きなミスや損失には繋がらないため、何かと見過ごされがちです。
しかし良く考えてみると、この事象は、以下の様な影響を及ぼします。
・企業側:会社をよくするヒントになり得るアイデアが得られない。
・会議で発言しなかった人:自分の能力を発揮し、磨く機会を逃してしまう。
さらにこうした状況が常態化する事で、状況はより悪化します。
会議で発言しなかった人:能力を発揮しない事が通常となり、他の業務にもマイナスの影響を及ぼす。
他の社員:一緒に働く中でその人の影響をうけてパフォーマンスが低下する。
結果として、一人一人のマイナスが積み重なり、組織の生産性が大きく低下する恐れがあります。
この様に、ふだんの会社生活でなんとなく許容しているこうした状況が、実は生産性低下につながるコミュニケーション不足のサインなのです。
2.コミュニケーション不足が生産性を低下させる理由
社内コミュニケーション不足はこのように、社員一人一人の能力発揮にマイナスに働き、それが周囲に伝播することによって、組織全体の生産性低下を引き起こします 。では、その社内コミュニケーション不足はなぜ起きるのでしょうか?
アメリカの社会心理学者スタイナーによると、集団の生産性は以下の公式を用いて説明が可能だそうです。
実際の生産性 = 潜在的な生産性 ー プロセス損失
「一人一人の持っている潜在能力の総和(潜在的な生産性)」- 「複数名で協働する過程で発生する一人一人の潜在能力のマイナス(プロセス損失)」が、集団の生産性になるという考え方です。
「複数名で協働する過程で発生する一人一人の潜在能力のマイナス」とは、具体的には「情報伝達が漏れたことによるミス」、「目標やミッションが共有されていないことによるモチベーションのバラつき」などが挙げられます。
もう少しわかりやすくするため、以下具体例を見ていきましょう。
南山大学 人文学部 心理人間学科の中村和彦教授が「OMNI-MANAGEMENT」誌に寄稿した記事を参考に解説します。
潜在的な生産性
各自最大120㎏、110㎏、100㎏、90㎏、80㎏の力で縄を引っ張れるメンバー5人が綱引きをした時、それぞれが最大限の力で縄を引けば、その総和は(120+110+100+90+80)=500㎏となります。
これが「潜在的な生産性」です。
プロセス損失
しかし実際に5人で一緒に縄を引っ張っても、なかなかこの様な結果は得られません。理由は複数あります。
●綱を引くのが自分一人ではないことから「自分一人くらい全力を出さなくてもいいだろう」という「社会的手抜き」が生じて、全力で縄を引かないメンバーがいた。
●前の人が手を抜いているのを見た後ろの人が影響され「じゃあ私もそんなに頑張らなくていいか」と自らも力を抜いてしまった。
●更に5人が同じタイミングで、同じ方向に向かって縄を引っ張るのも容易なことでないため、タイミングや方向がバラバラのまま引っ張って、個々の力が結集されなかった。
このように、複数の人々とともに何かをする過程で発生するのが「プロセス損失」です。
プロセス損失を最小化するための手段が「コミュニケーション」
ですので複数の人々とともに何かをする際、その潜在能力を最大化して生産性を高めるには、プロセス損失をいかに少なくするかが重要になります。
そしてそのプロセス損失を最小化するための手段が「コミュニケーション」なのです。
例えば、
●「優勝のために皆で全力を出し切る」という目標を共有する
●皆が同時に縄を引っ張れるように声を掛け合う
●互いに励まし合い、真剣に取り組む雰囲気づくりをする
などといったコミュニケーションを通して「プロセス損失」は最小化され、人とチームの潜在能力が最大限に発揮できるようになっていくからです。
複数名でともに何かをする際、プロセス損失の発生は避けられません。
従ってプロセス損失を減らしてくれるコミュニケーションが不足すると、プロセス損失が大きくなり個人・組織の力がマイナスされてしまい、生産性が低下してしまうのです。
(参考: OMNI-MANAGEMENT.2012.2月号 「コミュニケーション不足が招く「協働性」と「生産性」の低下」南山大学 人文学部 心理人間学科教授 中村和彦)
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