
「何度注意しても同じ行動を繰り返す」「指導すると強く反発され、周囲が疲弊している」。こうした社員への対応に悩む人事担当者や管理職は少なくありません。
一方で、対応を誤ると、会社側の指導や処分が問題視されるおそれもあります。本記事では、いわゆる「モンスター社員」を人物像ではなく具体的な行動から整理し、事実の記録から専門家への相談まで、企業が取るべき対応の進め方と法務上の注意点を解説します。
モンスター社員とは

モンスター社員とは、一般に、業務指示に従わない、周囲に威圧的な言動をするなど、職場での問題行動によって周囲の社員や業務に支障を生じさせる従業員を指して使われる俗称です。法律上・医学上の正式な用語ではありません。
似た言葉に「問題社員」がありますが、こちらも法律で定義された用語ではありません。どちらの言葉も、特定の人物の性格や人格を評価するためのものではなく、実務上は「いつ・どこで・どのような行動があり、業務にどのような影響が出たか」という具体的な事実をもとに判断することになります。
本記事でも「モンスター社員」という言葉は検索されることの多い表現として使いますが、対応の対象はあくまで確認できる行動です。
問題社員との違い
「問題社員」は、勤怠不良、業務命令への不服従、能力や適性の問題など、幅広い意味で使われる言葉です。そのなかでも、周囲への影響が大きい問題行動がみられる社員を「モンスター社員」と表現する場合があります。
ただし、両者の間に明確な法的境界があるわけではありません。「この社員はモンスター社員か、問題社員か」を見極めることよりも、どの行動が、どのルールに関係し、業務にどう影響しているかを整理するほうが、その後の対応に役立ちます。
モンスター社員に見られる主な問題行動

モンスター社員と呼ばれるケースでよく見られるのは、業務指示やルールへの不服従、責任転嫁、攻撃的な言動、協力の拒否、勤怠不良、過度な要求などの行動です。これらの行動が繰り返されている場合や、単発でも業務・職場環境への影響が大きい場合には、事実関係を確認したうえで対応を検討する必要があります。
以下は行動の類型であり、本人の性格や心理を判定するためのものではありません。指示に従わない、遅刻が多いといった行動があっても、指示の内容や本人の事情によって評価は変わります。上司への反論や意見、会社への要望や相談も、それだけで問題行動になるわけではありません。
| 行動の類型 | 具体的な行動例 | 業務上の問題 |
|---|---|---|
| 指示・ルールに従わない | 正当な業務指示を繰り返し拒む、報告ルールを守らない | 業務が進まない、ルールの公平性が保てない |
| 責任を他者へ転嫁する | ミスの原因を事実と異なる形で他者に帰す | 原因究明と再発防止が進まない |
| 攻撃的・威圧的な言動 | 大声で相手を責める、人格を否定する発言をする | 周囲が萎縮し、相談や報告がしにくくなる |
| 協力・情報共有の拒否 | 必要な情報を共有しない、引き継ぎをしない | 業務の停滞、属人化 |
| 度重なる勤怠不良 | 無断欠勤や遅刻を繰り返す | シフトや業務分担の再調整が必要になる |
| 過度な要求・独自解釈 | ルールを自分に都合よく解釈し、例外対応を繰り返し求める | 対応工数の増加、他の社員との不公平 |
業務指示や就業ルールに繰り返し従わない
業務上必要な指示に対して「自分の担当ではない」と繰り返し拒否する、定められた報告や承認の手順を守らない、といった行動です。
こうした行動が続くと、担当業務が進まないだけでなく、その分の作業を他の社員が引き受けることになります。また、ルールを守っている社員との間で扱いに差が生じ、ルールそのものの運用が難しくなります。
ミスやトラブルの責任を他者へ転嫁する
自分が関わったミスについて、事実と異なる説明をして他の社員や部署の責任にする、といった行動です。
原因が正しく把握できないため、再発防止策が立てられません。責任を押し付けられた社員との関係が悪化し、以後の連携に支障が出ることもあります。
同僚や上司に攻撃的・威圧的な言動をする
会議中に大声で相手を責める、人格を否定するような発言をする、特定の社員を繰り返し無視する、といった行動です。
周囲が発言や報告を控えるようになり、問題の把握が遅れる原因になります。内容や状況によってはハラスメントに該当する可能性があり、会社として対応が求められる場合があります。厚生労働省は、強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動であれば、1回でも就業環境を害する場合があり得るとしています(後述の「ハラスメントとの関係」を参照)。
情報共有や協力を拒み、業務を停滞させる
業務に必要な情報を自分だけで抱え込む、チームの作業分担に応じない、引き継ぎを行わない、といった行動です。
特定の人しか業務内容を把握していない状態になりやすく、その人が不在のときに業務が止まります。周囲の社員が情報を集め直すための手間も発生します。
度重なる勤怠不良など、職場運営に支障を生じさせる
無断欠勤や遅刻・早退を、注意を受けた後も繰り返す、といった行動です。
シフトの組み直しや業務の再配分が頻繁に必要になり、周囲の負担が増えます。ただし、勤怠の乱れには体調や家庭の事情などが関わっている場合もあるため、次章のように背景を決めつけずに確認することが前提です。
過度な要求や独自解釈を繰り返す
就業規則や社内制度を自分に都合よく解釈し、例外的な扱いを繰り返し求める、対応した担当者に対して要求を重ねる、といった行動です。
対応する担当者や管理職の工数が増えるほか、一人だけ例外を認めると、他の社員との公平性の説明が難しくなります。
なお、労働者が法律上の権利を主張すること自体は問題行動ではありません。有給休暇の取得やハラスメントの相談を「過度な要求」と混同しないよう注意してください。ハラスメントの相談をしたことなどを理由とする不利益な取扱いは、法律で禁止されています。
「モンスター社員」と決めつける前に確認したいこと

対象の社員を「モンスター社員」とみなす前に、次の5点を確認しておきます。確認を省くと、誤った前提のまま指導や処分を進めてしまうおそれがあります。
事実と印象を分ける
「態度が悪い」「やる気がない」「反抗的だ」は印象や評価であり、事実ではありません。「〇月〇日の会議で、期限までに資料を提出せず、理由の説明もなかった」のように、日時と行動が特定できる形に置き換えられるかを確認します。置き換えられない場合は、まだ対応の根拠になる事実がそろっていない可能性があります。
業務指示やルールそのものに問題がないか確認する
指示の内容があいまいだった、担当範囲が決まっていなかった、ルールが周知されていなかった、といった会社側の事情が原因になっていることもあります。本人の行動を問う前に、指示やルールが明確で、実際に伝わっていたかを確認します。
ハラスメント・メンタルヘルス・障害・家庭事情などを安易に推測しない
行動の背景に、職場でのハラスメント被害、体調や心身の不調、障害、育児・介護などの事情が関わっている場合もあります。ただし、管理職や人事が「おそらく〇〇だろう」と推測して扱いを決めることは避けてください。本人から申し出があった場合や、必要と判断される場合は、産業医や専門部署と連携し、本人の意向とプライバシーに配慮しながら対応します。
本人の説明を確認する
周囲からの報告だけで判断せず、本人がその行動をどう認識しているか、理由があったのかを確認します。本人の説明によって、指示の伝わり方や業務量の偏りなど、別の問題が見えてくることもあります。
複数の関係者から事実を確認する
一人の報告だけに基づくと、人間関係の対立や受け止め方の違いがそのまま判断に反映されるおそれがあります。可能な範囲で複数の関係者から話を聞き、共通して確認できる事実を整理します。聞き取りの際は、対象の社員に関する情報が必要以上に広がらないよう配慮してください。
問題行動を放置した場合に起こり得ること

問題行動を放置すると、周囲の社員への業務負担の偏り、人間関係や情報共有への支障、管理職の対応工数の増加などが生じる可能性があります。行動の内容によっては、ハラスメントや労務トラブルに発展し、会社の対応そのものが問われることもあります。
具体的には、次のような状況が考えられます。
- 周囲の社員に業務負担が偏る:対応されない業務やミスのフォローを、同じチームの社員が引き受けることになります
- 職場の人間関係や情報共有に支障が出る:特定の社員との関わりを避ける動きが生まれ、必要な報告や相談が滞ることがあります
- 管理職の対応工数が増える:個別の調整や周囲からの相談対応に時間が取られ、他の業務に手が回らなくなることがあります
- ハラスメント・労務トラブルに発展する可能性がある:攻撃的な言動が続けば、周囲の社員がハラスメント被害を訴える事態になり得ます
- 放置した会社側の対応が問われる場合がある:事業主にはパワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が義務付けられており、相談を受けても対応しなかった場合などは、会社の対応が問題になることがあります
どの程度の影響が出るかは、職場の規模や行動の内容によって異なります。いずれにしても、「そのうち落ち着くだろう」と様子を見るより、早い段階で事実を整理しておくほうが、その後の選択肢を広く保てます。
モンスター社員への対処法|企業が進める5ステップ

モンスター社員への対応は、①事実の確認と記録、②本人との面談、③改善点の具体的な提示、④改善状況の確認と人事対応の検討、⑤重大な処分を検討する場合の専門家への相談、という流れで整理できます。最初に取り組むのは、処分の検討ではなく事実の整理です。
以下は一般的な実務上の整理であり、実際の対応は就業規則や個別の事情によって変わります。この手順を踏んだことで、指導や処分の適法性が保証されるわけではありません。
STEP1 具体的な事実を確認・記録する
まず、問題となっている行動を客観的に記録します。記録の目的は、特定の社員を追い込む材料を集めることではなく、関係者の記憶に頼らずに事実関係を整理し、公平に判断できるようにすることです。
| 記録する項目 | 記録の例 |
|---|---|
| 日時 | 〇年〇月〇日 10時頃 |
| 場所 | 第2会議室(定例会議中) |
| 発言・行動 | 依頼していた月次資料について、期限を過ぎても提出がなかった。理由を尋ねると「自分の仕事ではない」と回答した |
| 関係者 | 同席者:〇〇、〇〇 |
| 業務への影響 | 資料作成を別の担当者が引き継ぎ、報告が1日遅れた |
| 会社側の対応 | 上長が業務分担表を示し、担当業務であることを説明した |
記録する際は、次の点に気をつけます。
- 評価や推測(「やる気がない」「わざとだ」など)ではなく、見聞きした事実を書く
- 会社側が行った指示や指導の内容もあわせて残す
- メールやチャットなど、既に業務上存在する記録はそのまま保管する
- 記録を閲覧できる人を限定し、業務に必要な範囲を超えて個人情報を集めない
STEP2 本人と面談し、事実認識を確認する
記録した事実をもとに、本人と面談します。この段階の目的は、叱責ではなく、本人が事実をどう認識しているか、理由があったのかを確認することです。
面談では、記録した事実を具体的に伝え、本人の説明を最後まで聞きます。本人の説明が記録と異なる場合は、その場で結論を出さず、必要に応じて追加で確認します。
同席者を置くかどうか、何人で行うかは、事案の内容や本人との関係性によって判断します。同席者を置く場合も、本人が威圧感を覚える人数や進め方は避けてください。面談の内容は、日時・参加者・話した内容・本人の説明を記録しておきます。
STEP3 期待する行動と改善点を具体的に伝える
事実を確認したら、何を改めてほしいのかを具体的に伝えます。「態度を改めてください」「もっと協調性を持ってください」といった抽象的な伝え方では、本人も何を変えればよいかがわかりません。
伝える内容は、次の4点に整理します。
- 何が問題だったか:〇月〇日と〇月〇日に、月次資料の提出期限を守らなかった
- どのルールに関係するか:業務分担表で担当とされている業務であり、就業規則の職務遂行に関する規定に関係する
- 今後どの行動を求めるか:提出期限の前日までに提出する。遅れる場合は、期限前に上長へ理由と見込みを連絡する
- いつ確認するか:翌月末の面談で、提出状況を一緒に確認する
伝えた内容は書面やメールでも共有しておくと、本人と会社の認識のずれを防げます。
STEP4 改善状況を確認し、必要に応じて人事対応を検討する
STEP3で決めた時期に、改善状況を確認します。改善が見られた場合は、そのことを本人に伝えます。改善が見られない場合は、理由を確認したうえで、必要に応じて次のような対応を検討します。
- 再度の指導と、改善期間の設定
- 業務分担の見直し
- 配置転換
- 人事評価への反映
- 懲戒処分
どの対応が適切かは、行動の内容や程度、これまでの指導の経緯、就業規則の定め、法令によって異なります。一律に「この順番で進めればよい」というものではありません。特に配置転換や懲戒処分は、後述の注意点を確認したうえで検討してください。
STEP5 重大な処分を検討する場合は専門家に相談する
退職勧奨、普通解雇、懲戒解雇など、雇用の継続に関わる対応を検討する段階では、社内だけで判断せず、弁護士や社会保険労務士に相談してください。
労働契約法16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利を濫用したものとして無効になると定められています。問題行動があるという事実だけで、解雇が認められるわけではありません。
相談の際は、STEP1〜4で整理した記録、就業規則、面談や指導の経緯をまとめておくと、状況を正確に伝えやすくなります。社外の相談先としては、弁護士・社会保険労務士のほか、都道府県労働局の総合労働相談コーナーもあります。
モンスター社員への対応でやってはいけないこと

対応するときに避けたいのは、感情的な叱責、人格の否定、レッテル貼り、根拠のない処分、他の社員の前での叱責、退職の強要、そして長期間の放置です。相手に問題行動があっても、会社側の対応が不適切であれば、その対応自体が問題になることがあります。
- 感情的に叱責する:事実よりも感情が前面に出ると、何を改めるべきかが伝わらず、本人との対立が深まりやすくなります
- 人格を否定する:「だからあなたはダメなんだ」など、行動ではなく人格に向けた発言は、相手に問題行動があってもパワーハラスメントに当たり得ます
- 「モンスター社員」と本人にレッテルを貼る:本人に対しても、社内の会話や資料でも、人物を分類する呼び方は避け、具体的な行動で話します
- 証拠なく処分を決める:事実の確認や本人への聞き取りを経ずに処分を決めると、処分の有効性が争われたときに説明が難しくなります
- 他の社員の前で晒す:厚生労働省の指針では、他の労働者の面前で大声による威圧的な叱責を繰り返すことが、パワーハラスメントに該当すると考えられる例の一つとして挙げられています。実際に該当するかは個別の状況で判断されますが、指導は周囲のいない場で行うのが基本です
- ハラスメントになり得る方法で退職を迫る:繰り返しの長時間面談、「応じなければ解雇する」といった発言、仕事を与えない配置などで退職に追い込むことは、違法と判断されるおそれがあります
- 問題行動を長期間放置する:放置した期間が長いほど、周囲への影響が広がり、後から指導や処分を行う際にも経緯の説明が難しくなります
ハラスメントとの関係
問題行動のある社員への対応では、「本人の行動がハラスメントに当たるか」と「会社側の指導がハラスメントにならないか」の両面から確認します。判断の基準は、厚生労働省が示すパワーハラスメントの定義です。
パワーハラスメントの3要素と「適正な指導」
厚生労働省によると、職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる次の3つの要素をすべて満たすものです。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
また、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しないとされています。厚生労働省の指針では、遅刻などのルール違反を再三注意しても改善されない労働者に対して、一定程度強く注意することが、パワーハラスメントに該当しないと考えられる例として挙げられています。
問題行動を改めるよう指導すること自体は、会社として求められる対応の一つです。
部下や同僚からの言動が該当する場合
「優越的な関係」は、上司から部下への関係に限りません。厚生労働省は、同僚や部下による言動であっても、次のような場合には優越的な関係を背景とした言動に当たる例として示しています。
- 行為者が業務上必要な知識や豊富な経験を持っており、その人の協力がなければ業務を円滑に進めることが難しい場合
- 同僚や部下が集団で行う行為で、抵抗や拒絶が難しい場合
部下から上司への言動は、俗に「逆パワハラ」と呼ばれることがありますが、法律上独立した類型があるわけではありません。上司・部下のどちらからの言動であっても、同じ3つの要素に照らして判断されます。
社員の言動が他の社員へのパワーハラスメントに当たる可能性がある場合、事業主には、相談への対応や事実確認など、雇用管理上の措置を講じることが義務付けられています。
問題行動がある社員への指導で注意したい点
厚生労働省は、パワーハラスメントに当たるかどうかの判断では、相手の問題行動の内容・程度と、それに対する指導の態様との関係が重要な要素になるとしています。そのうえで、相手に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動はパワーハラスメントに当たり得るとしています。
指導の際は、次の点を意識してください。
- 指摘の対象を、人格ではなく具体的な行動に絞る
- 行動の程度に見合った伝え方をする
- 大声、長時間の拘束、他の社員の前での叱責を避ける
- 指導の内容と経緯を記録しておく
個別の言動がパワーハラスメントに当たるかどうかは、状況を総合的に考慮して判断されます。判断に迷う場合は、社内の相談窓口や専門家に確認してください。
懲戒・配置転換・解雇を検討するときの注意点

懲戒・配置転換・解雇は、いずれも本人に大きな不利益を与え得る措置であり、就業規則上の根拠、事実関係、処分の相当性、目的の正当性が問われます。決まった順序があるわけではなく、個別の事情に応じて判断します。
就業規則と事実関係を確認する
最高裁判例では、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則で懲戒の種類と事由を定めておく必要があるとされています。労働基準法でも、制裁の定めをする場合はその種類と程度を就業規則に記載することとされています。
処分を検討する前に、次の点を確認します。
- 問題となっている行動が、就業規則のどの規定に該当するか
- その規定が社員に周知されていたか
- STEP1で整理した事実が、規定に当てはまるか
なお、「諭旨解雇」「諭旨退職」などの処分の内容や手続きは、会社ごとの就業規則で定義が異なります。自社の規定を確認してください。
処分の重さが問題行動に見合っているか確認する
労働契約法15条では、懲戒が、労働者の行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効になると定められています。
処分の重さを検討する際は、行動の内容と程度、繰り返しの有無、業務への影響、これまでの指導の経緯、過去に同様の行動をした社員への処分との均衡などを確認します。
また、就業規則で減給の制裁を定める場合、労働基準法91条により、1回の額は平均賃金の1日分の半額、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えることはできません。
配置転換は業務上の必要性と目的を確認する
配置転換は、職場の人間関係や業務内容を見直す手段として検討されることがあります。転勤命令に関する最高裁判例では、業務上の必要性がない場合や、不当な動機・目的による場合、本人に通常受け入れるべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、権利の濫用になるとされています。
退職に追い込むことを目的とした配置や、業務をほとんど与えない部署への配属が、人事権の裁量を逸脱したものとして無効とされた裁判例もあります。配置転換を検討する際は、報復や退職の誘導を目的としていないか、業務上の必要性を説明できるかを確認してください。育児や介護をしている社員の場合は、その状況への配慮も求められます。
退職勧奨は本人の自由な意思を尊重する
退職勧奨は、会社が社員に退職を促し、本人の合意による退職を求めるものです。本人には応じるかどうかを決める自由があります。
裁判例では、ことさらに多数回、長期にわたる退職勧奨は不当な退職の強要となる可能性が高いとされ、全体として本人の自由な意思決定が妨げられる状況であった場合には違法な権利侵害になるとされています。
「応じなければ解雇する」と告げる、本人が明確に断っているのに面談を繰り返す、といった方法は避けてください。退職勧奨を検討する段階では、進め方について事前に専門家へ相談することをおすすめします。
解雇は最終手段として慎重に検討する
普通解雇・懲戒解雇のいずれも、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効となります。懲戒解雇は懲戒処分でもあるため、労働契約法15条の観点からも判断されます。
勤務成績を理由とする解雇について、改善のための体系的な教育や指導が行われていなかったことなどから、解雇権の濫用と判断された裁判例もあります。指導や改善の機会を設けた経緯は、解雇の有効性を判断するうえで考慮される要素の一つです。
また、解雇する場合には、労働基準法20条により、少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが定められています。懲戒解雇だからといって、解雇予告や解雇予告手当が自動的に不要になるわけではありません。労働者の責に帰すべき事由を理由に解雇予告の規制の適用除外を受けるには、所轄の労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受ける必要があります。なお、除外認定は予告の手続きに関するものであり、解雇そのものが有効かどうかを判断するものではありません。
解雇を検討する場合は、弁護士や社会保険労務士に相談したうえで判断することが望まれます。
問題行動を生みにくい・放置しにくい組織づくり

問題行動への対応を早く、公平に進めるには、ルールの明確化、管理職による早期の対応、相談経路の整備、評価基準の具体化、ハラスメント防止措置、日常的なコミュニケーションの機会といった仕組みを整えておくことが役立ちます。
- 就業ルール・服務規律を明確にする:何が求められ、何が禁止されているのかが就業規則や社内規程で明確になっていれば、指導や処分の根拠を示しやすくなります
- 管理職が問題行動を放置しない:小さな段階で事実を伝え、改善を求めることで、行動が定着する前に対応できます。管理職向けに、記録や面談の進め方を共有しておくと対応がそろいます
- 相談・エスカレーション経路を整える:周囲の社員が困ったときに誰に相談できるのか、管理職が一人で抱え込まずに人事へ相談できるのかを決めておきます
- 評価基準を具体化する:成果だけでなく、報告やルール遵守など行動面の基準を明示しておくと、評価面談で具体的なフィードバックがしやすくなります
- ハラスメント防止措置を整備する:パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置は、企業規模にかかわらず事業主の義務です。方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速な対応などを確認しておきます
- 日常的なコミュニケーションの機会を確保する:定期的な1on1などで業務の状況を把握しておくと、指示の行き違いや業務量の偏りに早く気づけます
日常の指導や1on1の進め方は「やる気のない社員・やる気がない人への対処法」、職場で問題が見過ごされやすくなる背景は「事なかれ主義とは?職場で広がる原因と上司ができる4つの対策」でも扱っています。
よくある質問
モンスター社員とはどのような社員ですか?
業務指示やルールに従わない、周囲に威圧的な言動をするなど、職場での問題行動によって周囲や業務に支障を生じさせる従業員を指す俗称です。法律上・医学上の正式な用語ではないため、実務では人物像ではなく、いつ・どのような行動があり、業務にどのような影響が出たかという具体的な事実で判断します。
モンスター社員と問題社員に違いはありますか?
「問題社員」「モンスター社員」は、いずれも法律上の定義がある言葉ではありません。一般に「問題社員」は勤怠不良や業務命令違反などを含む広い意味で使われ、そのなかでも周囲への影響が大きい問題行動がみられる社員を「モンスター社員」と表現する場合があります。明確な境界があるわけではないため、実務では呼び方よりも、具体的な行動と業務への影響を確認します。
モンスター社員を辞めさせることはできますか?
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となります(労働契約法16条)。問題行動があることだけで解雇が認められるわけではなく、事実関係、指導の経緯、改善の機会、就業規則の定めなどが個別に判断されます。退職勧奨も、本人の自由な意思決定を妨げる方法で行うと違法となる場合があります。重大な処分や退職に関わる判断は、弁護士や社会保険労務士に相談したうえで進めてください。
モンスター社員への指導はパワハラになりますか?
厚生労働省は、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場におけるパワーハラスメントに該当しないとしています。一方で、相手に問題行動があっても、人格を否定する言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動はパワーハラスメントに当たり得ます。該当するかどうかは個別の事情を総合的に考慮して判断されます。
モンスター社員の問題行動を最初にどう記録すればいいですか?
日時、場所、具体的な発言や行動、関係者、業務への影響を、評価や推測を交えずに記録します。「態度が悪い」ではなく「〇月〇日の定例会議で、依頼した資料を提出期限までに提出せず、理由の説明もなかった」のように、第三者が読んでも同じ事実を把握できる書き方にします。記録は必要な範囲にとどめ、閲覧できる人を限定するなど個人情報の扱いにも配慮してください。
まとめ
「モンスター社員」は法律上の用語ではなく、対応の対象は具体的な行動です。最初に取り組むのは、事実と印象を分けて記録し、本人の説明を確認することです。そのうえで、改善してほしい行動と確認の時期を具体的に伝え、改善状況に応じて対応を検討します。
懲戒・配置転換・退職勧奨・解雇を検討する段階では、就業規則と法令を確認し、弁護士や社会保険労務士に相談しながら進めてください。
