
ノーレイティングとは?をひと言でまとめると、
「ランク付けしない」評価制度のこと。
無理なレイティング(ランク付け)を辞めることで個々の能力や目標達成までの過程、仕事への姿勢も評価できるようになり、人事評価の不透明さが払拭できるところがメリットです。
具体的には年次での相対評価を辞めて、下記の図のようにリアルタイムでの目標設定とフィードバックを繰り返す中で社員の能力仕事に取り組む姿勢を評価します。
一方で、ノーレイティングを実施するとなると、上司が日頃から細かく部下の目標管理をしなければならないため、管理職の負担が急激に増えてしまいます。
急にノーレイティングを取り入れようとしても充分に機能しないため、メリットやデメリットを把握し、導入の検討や下準備から始めることが大切です。
そこで、この記事では
〇ノーレイティングとレイティングの違い
〇ノーレイティングが注目される背景
〇ノーレイティングのメリットとデメリット
〇ノーレイティングの導入事例
〇導入前に気を付けたいポイント
〇簡単に導入する方法
などノーレイティングに関わる疑問を全解説していきます。
これを読めばノーレイティングとはどのような人事制度なのか分かり、自社に導入するかどうかのジャッジができるようになるでしょう。
ぜひ、最後まで読み社員がより生き生きと働ける環境作りや人事制度の見直しに役立ててみてください。
1.ノーレイティングとは「ランク付けしない」評価制度
ノーレイティングとは、「A,B,C」などのランク(レイティング)をつけて社員を評価しない制度のことです。
「ノーレイティング」に対し従来通りランク付けをする人事評価制度を「レイティング」と呼び、両者の違いをまとめると下記の図のようになります。
レイティングは社員の目標達成率や成績をもとに、相対評価をしてランク付けをする制度です。
成績や評価項目と照らし合わせ「平均以下、平均以上かどうか」という尺度で判断すればいいので、評価する側が一定の評価を割り振りやすくなっています。
レイティングは1990年以降成果を重視してきた日本の企業で、職務に対する評価制度として定着しました。
しかし、2010年以降「成果も重要だけれど、個人の能力や人物像も評価するべきだ」という考え方が広がり始めると、レイティングが正しい評価方法なのか疑問を抱くように。
そこで、アドビシステムズやマイクロソフト、アクセンチュアなどのアメリカ大手企業がすでに導入していた「ノーレイティング」に、日本企業も関心を寄せるようになりました。
まだまだ、効果や実践例は少ないものの「時代に合う新しい人事制度」として注目が集まっています。
【ノーレイティングは「評価をしないわけではない」】 ノーレイティングのことを「社員への評価をしない制度」と勘違いして捉えてしまう場合があります。詳しい評価方法は次の章で説明しますが「ランク付け」と「年次での評価をしない」という2つがポイント。 目標対する課題や評価はその都度実施しており、給与や上進に反映させていきます。 |
参考:日本企業人事制度の改革について
2.ノーレイティングが注目されている3つの理由
レイティングとノーレイティングの違いやノーレイティングに移行し始めた背景が分かったところで、今ノーレイティングが注目されている理由を詳しくご紹介します。
2-1.相対評価では評価基準が曖昧
レイティングでの評価は社員に対し「A」や「B」といった明確なランク付けを提示するのにもかかわらず、ランク付けをするときの基準が曖昧となっていることが多いです。
営業職や販売職、リーダー職のように「契約数、売上」など明確な基準となる数字が分かる場合はまだしも、事務職やサポート職など周囲との比較が難しい職種になると「A」と「B」の差がどこにあるのか分からず、社員が納得できない場合があります。
2018年にアデコ株式会社が実施した「「人事評価制度」に関する意識調査」では、62%の社員が人事評価に不満を抱えているという結果が出ています。
その理由として「評価基準が不明確」が62.8%、「評価者の価値観や業務経験によりばらつきが出て、不公平だと感じる」が45.2%となっており、社員から見ても不満の多い人事評価となっているのが現状です。
この状況を改善し社員が納得できる評価基準で考査をするという点で、ノーレイティングが注目されるようになりました。
2-2.評価によりやる気をなくす社員が出る
レイティングによる人事評価では、誰かに必ず「C」や「D」をつけなければなりません。
これにより「次はCランクになれるよう頑張ろう!」と競争心を燃やす社員ばかりならいいのですが、不当な評価だと感じる場合はやる気を落としてしまいます。
下記の図のように同じ社員でも周囲の能力によって評価が大きく左右されてしまうので、人事異動や部署移動をした結果、評価が下がるということもあり得るでしょう。
また、優秀な人材ばかりが揃っていたとしても、誰かがCやEなどの下位ランク評価を受けることになります。
そうなると「なぜCランクなのか納得できない」「人事異動のせいで評価が落ちた」とやる気を落とす社員が出てきてしまい、結果的に生産性の低下や離職率増加を招くおそれが。
ノーレイティングなら「全員が本当に優秀なら、それに見合う評価をするべきではないか?」という正当な評価が実施できるようになるため、注目を集めているのです。
2-3.時代にそぐわない評価の遅さ
これまでの人事評価は、1年かけてじっくりと年次評価をしてきました。しかし、加速する情報化社会では1年で社会情勢や業務への取り組み方が大きく変化するようになり、年次評価では追いつけなくなっているのが現状です。
実際に、1年前に立てた目標が1年後には「会社の方針からずれてしまった」「目標自体に無理がある」となることも少なくありません。
そのため、会社の方針や社会環境に適宜対応しながら、社員も会社も成長していけるよう人事評価においてもスピード感が求められています。
適宜目標を確認しながらフィードバックしていけるノーレイティングは、スピード感を持ち目標や課題と向き合っていけるため個人と会社の成長を共にスピードアップさせることができるのです。
【年次目標の設定方法にも問題がある】 年次目標を設定する場合は、「会社の目標」「支店の目標」「部署の目標」「チームの目標」「個人の目標」とどんどん小さく絞っていく「ウォーターフォール型」で決めることが多いです。 こうなると「まずは目先の目標を達成ないと評価が上がらない」と考えてしまい、目標を達成することに力を注いでしまいます。 その結果、会社の目標のためにリスクを冒してまで挑戦しようという思いが芽生えにくく、画期的なアイディアや革新的な挑戦が行われなくなります。 あくまでも目標達成のために行動しようと考えてしまうので、視点が狭くなり会社の発展を妨げることにもなるでしょう。 |
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3.ノーレイティングの4つメリット
ここからは、ノーレイティングを実施することで得られる具体的なメリットを4つご紹介します。
3-1.リアルな目標設定が成長につながる
ノーレイティングでは日常的に上司と部下がコミュニケーションを取り、現段階での目標設定を行います。
その目標に対しどのように取り組んでいるのかフィードバックを繰り返すことで、課題や成功点を共有して次の目標へと繋げていくことが可能です。
年次評価と比較してもスピード感の違いが一目瞭然で、常に試行錯誤を繰り返すため個人の成長を促すことができます。
自分自身で「今、しなければならないことは何か、今したいことは何か」を見つけ出すことは「内発的動機付け」に繋がります。
内発的動機付けによる行動は「他の動機付けで行動するよりも自己肯定感が持てる」「モチベーションが向上する」と言われています。
自分自身で目標設定をする癖をつけることで社員が生き生きと業務に取り組めるだけでなく、自発的に新しい挑戦ができるようになるでしょう。
3-2.繋がり強化で離職に歯止めがかかる
ノーレイティングには、離職に歯止めをかけられるというメリットがあります。
2019年にエンジャパンが実施した「「退職のきっかけ」実態調査」を見てみると、「やりがいを感じない」「人間関係」「人事制度への不満」が離職の大きな要因となっていることが分かります。
退職を考え始めたきっかけは? |
|
やりがいを感じない |
41% |
給与が低い |
41% |
人間関係が悪かった |
35% |
評価・人事制度に不満がある |
26% |
ノーレイティングを導入すれば、上司と部下日常的にコミュニケーションを取らなければなりません。
その中で信頼関係が築けるのはもちろんのこと、評価についての意見や仕事に対しての想い、不満を拾えるため、離職のきっかけとなる主な要因をカバーできることが分かるでしょう。
2012年12月より人事評価制度を廃止し、個人の成長にフォーカスを当てた人事制度を導入したアドビシステムズ株式会社では、離職率が大幅に下がったという結果が出ているとのこと。
社員からも「働きがいのある会社として他人に勧められる」という声が増え、ノーレイティングが「これからもこの企業で働きたい」という意欲に繋がっているようです。
ランク付けをやめ、納得感のある人事制度を実現。アドビ「チェックイン」運用の実態
3-3.相対評価で判断しなくてもいい
レイティングでは「A,B.C」といったランクを必ず誰かに割り振らないといけないため不本意でも「C」をつける必要があり、社員からの不満要因になっていました。
ノーレイティングでは、社員全員が成長したのであれば全員に「A」ランク同等の待遇をすることが可能で、個性や個々の能力を正当に判断できます。
ランク付けに縛られることなく一人一人と向き合いながら評価ができるため、会社側としても自社のビジョンに合う優秀な人材を囲い込みやすくなるでしょう。
3-4.働き方改革を推進しやすい
2019年4月より順次施行されている働き方改革。在宅ワークや時短勤務、テレワークなどの多様な働き方を推進しています。
従来の評価制度は多様な働き方に対応していないため「在宅ワークの場合はどのように相対評価をするのか?」「さまざまな働き方を混ぜ合わせながら、どのようにランク付けをそするのか?」といった課題が残り、より評価基準が曖昧で複雑なものとなってしまう恐れがあります。
しかし、ノーレイティングは個人の目標設定やライフスタイルに寄り添えるので、下記のような柔軟な対応が叶います。
どのような働き方をしていても個別に対応ができるため、不平不満が生まれにくくなり円滑に業務が進行できるところも大きなメリットです。
4.ノーレイティングのデメリット
一人一人の努力や成果を評価に反映できることでメリットが多いノーレイティングですが、デメリットとしてはどのようなことを抑えておく必要があるのでしょうか?
4-1.上司や管理者のマネジメント力が問われる
ノーレイティングが成功するかどうかは、上司のマネジメント力にかかっているといっても過言ではありません。
これは、相対評価のような目安となる分かりやすい基準がないため、すべての決裁権は管理をする側に委ねられてしまうためです。
ノーレイティングをスタートさせるとなると、担当の部下全員に以下のようなマネジメントをする必要があります。
・リアルタイムでの目標設定→今の課題を明確にし、適切な課題かどうかを判断する ・適宜フィードバックをする→部下の仕事を管理しながら、問題点と評価できる点を明確にする ・モチベーションの管理→部下のモチベーションを上げるよう工夫し、コミュニケーションを取る ・トラブルの解決→部下の悩みや相談を聞いて、適切なアドバイスをする ・会社のビジョンを把握する→会社のビジョンをしっかりと理解し、踏まえた上で部下に指導できる ・能力仕事への姿勢を平等に判断する→部下の成長ややる気を平等に評価し、給与などに反映させる |
部下の現状と目標、能力や課題を冷静に判断し、適切なサポートができるマネジメント力が備わっていないと正当な評価ができないのはもちろん、優秀な人材であっても力を発揮することができません。
このように、部下を指導する立ち場にある管理職が同レベルのマネジメント力を備えていないと、ノーレイティングの仕組み自体を活かせないため「どのように部下を指導していくとのか」というところから検討していく必要があります。
【上司との相性がやる気や評価に直結することも】 上司が部下の能力や個性、働き方に理解を示し正当な判断してくれる場合なら問題はありませんが、相性の不一致が起きた場合、思うように進まなくなる可能性があります。 良好なコミュニケーションが取れていないと「部下の状況が明確に判断できなくなる」「信頼関係が崩れているため評価に不満を抱く」「前向きな検討ができない」などのトラブルに繋がる可能性があるため、やはり管理職の配置やマネジメント力は重要なポイントとなります。 |
4-2.管理職の業務が増える
ノーレイティングは、管理職の仕事量がぐんと増えてしまうところが問題視されています。部下と積極的にコミュニケーションを取り、スピード感を持って目標設定やフィードバックをしなければならないため、日頃からミーティングやチェックを重ねなければなりません。
それに加えて、適切な評価をするため部下の目標や業務への姿勢もその都度残していく必要があります。部下が多ければ多いほど負担が増え、自身の業務にまで手が回らないということも起こりえるでしょう。
そうならないためにも、事前に後ほど第7章でも詳しく説明する
・ノーレイティングの導入方法や展開方法を明確にしておく
・管理職の負担が増えることが分かっているので、どのように負担を軽減するのか検討する
・管理職の報酬についても再検討をする
という3つのポイントだけでも検討しておくことをおすすめします。
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