
人事制度とは企業が人材を管理するための仕組み全般のことです。
広く捉えれば働き方に関する仕組みなども含まれますが、近年では「従業員の処遇を決定する仕組み」に絞って「人事制度」という言葉を使うことが多くなっています。
従業員の処遇を決定する仕組みは「①等級制度 ②評価制度 ③報酬制度」の3つの柱から成り立っています。
「人材こそが企業を動かす源」であることは、いうまでもありません。人材の管理を行う人事制度は、企業を成長させる原動力です。人材マネジメントの第一歩は、人事制度を理解するところから始まります。
逆に、人事制度を正しく理解しないまま企業の組織運営に携わることは、自社の持つ人材のポテンシャルを潰すことにもなりかねません。経営者・人事担当者・マネジャー……どんな立場であれ、人事制度への理解は必要不可欠です。
そこで本記事では、改めて押さえておきたい人事制度の基礎知識をスムーズに理解できるよう、図解を交えながらわかりやすく解説。
さらに、現場ですぐに役立つ情報として、
- 現代の人事制度にまつわる問題点
- 新たに注目されている人事制度
- 人事制度を見直すべきタイミング
- 人事制度を改革するときの注意点
…といった内容も盛り込みました。
「初めて人事の仕事に携わる」という方から「会社の人事制度を変えたい」という方まで、本記事を通して人事制度の理解を深めていきましょう。
1. 人事制度は3つの柱から成り立っている
冒頭でもお伝えした通り、人事制度とは「企業が人材を管理する上で基本となる仕組み全般」のことで、等級制度・評価制度・報酬制度の3つの柱から成り立っています。
それぞれ詳しく解説します。
1-1. 等級制度
1つめの柱「等級制度」は、能力のレベルや職務内容に従って定められた「等級」に基づいて、従業員の社内での位置付けや給与を決定する制度のことです。
等級制度では、それぞれの等級ごとに、以下のポイントを定めます。
- どのような役割が求められているのか?
- どのように行動してほしいのか?
- どのような能力が必要なのか?
このような等級を設定するメリットは、大きく分けて2つあります。
1つめは、等級制度によって「組織がどんな人材を求めているのか」が明確になるため、社内のキャリアステップの指標となるということです。
「課長とは」「部長とは」「取締役とは」…と定義が明らかになるため、社員はそれを目指して努力することができます。
2つめは、「評価制度」「報酬制度」の設計がしやすくなるということです。
等級制度で定義した役割や能力と現状を比較することで評価が可能になります。また、等級によるランク付けは、報酬の差として反映することができます。
以上から、等級制度は人事制度の中でも、特に重要性が高く「骨子」となる制度といえるでしょう。
1-2. 評価制度
2つめの柱「評価制度」は、その名の通り従業員を“評価”するための制度です。評価の基準が不明瞭では、正当な評価ができません。従業員からの不満も噴出するでしょう。
そこで、評価制度によって以下の点を明確にする必要があります。
- 何をどのように評価するのか?
- いつ評価するのか?
- 誰が評価するのか?
採用している評価制度は、各企業ごとにさまざまなパターンがあります。以下は、評価制度の一例です。
評価の名称 |
評価の対象 |
能力評価 |
判断力や統率力のように、仕事をする過程で発揮していた能力を評価の対象とする。定性的な評価となるため、曖昧なものになりやすい。 |
情意評価 |
積極性や法令順守(コンプライアンス)など、仕事の取り組み姿勢や勤務態度を評価の対象とする。能力と同様に曖昧な評価になりやすい。 |
成果評価 |
売上目標の達成度や生産個数のように仕事であげた実績(業績)を評価の対象とする。目標管理制度が用いられることが多い。 |
コンピテンシー |
業績に結び付く行動を評価の対象とする。高業績者の職務行動を分析して評価基準が作成される。実際には能力・情意評価とほぼ同じもの。 |
バリュー評価 |
会社の経営理念の実践度などを評価対象とする。昇進者を選ぶときの参考情報とされることがある。導入している会社は少ない。 |
出典:労務行政研究所『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。』労務行政,2017年,P.97
この中で、現在国内で多く採用されているのは「成果評価(業績評価)」です。成果評価を採用している人事制度は「成果主義型」と呼ばれます。
このように評価制度を使って評価した結果は、報酬や人材配置などに反映されます。従業員を評価することによって、その従業員の強み・弱み・改善点などが明確になりますから、成長を促す効果もあります。
1-3. 報酬制度
3つめの柱「報酬制度」は、給与・賞与などの報酬を決めるためのルールです。前述の「等級制度」「評価制度」とリンクしており、等級および評価に基づいて報酬が決まります。
実際の運用例を見てみましょう。
このように、「等級制度」→「評価制度」→「報酬制度」の流れで報酬が決定するのが、一般的な人事制度の仕組みです。
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2. 人事制度の目的と役割
人事制度は、決めなければならないルールが多く、運用には手間がかかります。そこまでの労力をかけて、人事制度を作るのはなぜでしょうか。本章では「人事制度の目的と役割」について見ていきましょう。
2-1. 目的は人的資源を最大限に活かすこと
人事制度の目的を一言でいえば「人的資源を最大限に活かすこと」です。人的資源とは、経営資源の「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、「ヒト」を指す言葉です。
企業のビジョンや目標を実現するためには、人的資源を有効活用することが不可欠です。従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に引き出し、組織全体の生産性を向上させる必要があります。
そのために、企業はさまざまなマネジメント手法を駆使して、人材管理に取り組んでいます。この人的資源を管理する人的マネジメントの最も基本的なツールが「人事制度」なのです。
もしも企業に人事制度がなかったら、適切な人材管理が難しくなります。資源を管理できていない状況で企業が成長し続けることは不可能でしょう。
このように、人事制度は企業が業績向上を目指すための要(かなめ)の戦略だといえます。
2-2. 役割は人を育てること・やる気を引き出すこと
では、人的資源を最大限に活かすために「人事制度が担う役割」とは何でしょうか。端的にいえば「人を育てること・やる気を引き出すこと」です。
前章で見たように、人事制度は「等級・評価・報酬」の3つの柱から成り立っています。
等級制度によってキャリア目標が明確になれば、その目標に向かって努力する意欲が生まれます。
評価制度によって強みや改善点を発見することは、その人材の成長に直結します。自分の行動が認められれば、報われた気持ちになってモチベーションが上がります。
さらに、人には「ある行動をとって何か報酬が得られれば、その行動をとることが多くなる」という特性があります。組織のために一生懸命に働いた結果、適正な報酬を得ることができれば、その行動がさらに強化されていきます。
このように、従業員の成長を促し、やる気を引き出し、結果として組織全体の生産性を向上させていくことが、人事制度の役割となります。
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3. 現代の人事制度にまつわる問題点
ここまでに紹介した「等級・評価・報酬」の3つの柱を基軸とする人事制度は、現在、多くの企業で採用され主流となっているものです。
しかし、人事制度には「時代の流れとともに変遷していく」という特徴があります。特に近年は、既存の人事制度に対して、以下の問題点が指摘されることが増えています。
①働き方の多様化への対応
②業務の高度な個別化
③ランク付け評価の限界
ひとつずつ見ていきましょう。
3-1. 働き方の多様化への対応
1つめは「働き方の多様化」に対応ができていないという問題点です。働き方の多様化とは具体的に、次のような例です。
- フレックス
- 時短勤務
- テレワーク
- ダブルワーク・副業
働き方改革の影響で「さまざま就業スタイルで自由に働きたい」と考える従業員が増えています。就業時間も場所も柔軟になっていく傾向は、今後も加速していくでしょう。
一方、従来の人事制度では、このようないわば「各従業員バラバラ」の働き方は想定されていませんでした。働き方の多様化すれば、等級制度・評価制度・報酬制度も多様化させる必要性が出てきます。
そこで、人事制度の見直しを行う企業が増えている現状があります。
3-2. 業務の高度な個別化
2つめは「業務の高度な個別化」という問題です。これは「従業員それぞれが自分にしかできない業務のスキルを磨き、個別に能力を発揮する形」へと変化しているということです。
従来の人事制度では、複数の従業員が同じ業務を行い、経験を重ね技能が熟練するに従って、評価が高くなるよう設計されていました。
ところが、業務の個別化が進むと、「誰が・どのような指標で業務を評価すれば良いのか?」という点で、難易度が上がります。つまり、一律の評価基準では適切な評価ができなくなり、評価も個別化していく必要性が出てくるのです。
これに伴い一部の企業では、人事制度自体を個別化させる傾向も見られます。
3-3. 成果主義型の人事制度の限界
3つめの問題点は「成果主義型の人事制度の限界」です。
現代の日本では、多くの企業で成果主義型の人事制度が導入されています。「目標を設定し、目標達成を目指して業務を行い、年度末などに評価を行う」という体制です。
これは1990年代に欧米から日本へ入ってきた人事制度ですが、いま欧米では成果主義的な人事制度を廃止する動きが見られています。例えば、年度目標設定の廃止、ランク付けの廃止、期末フィードバックの廃止などに踏み切る企業が出ているのです。
これには、成果主義型の人事制度の成熟に伴い、その問題点が明らかになってきたという背景があります。例えば、次のようなものです。
<成果主義型の問題点>
- 従業員が個人主義に走りチームワークが低下する
- 個人の個性的な能力が尊重されにくい
- 評価サイクルに時間がかかりビジネス展開のスピードが低下する
- 失敗回避の心理が働きイノベーションが起きない
そこで「実は、成果主義型によって、組織の生産性が落ちているのではないか?」と疑念を抱いた企業が、成果主義型以外の人事制度へのチャレンジを始めています。
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