
4. 新たに注目されている人事制度
前章では、現代の人事制度に生まれている問題意識をご紹介しました。本章では、それらの問題の解決を目指して、新たに生まれている人事制度についてご紹介しましょう。
2020年代以降の人事制度のトレンドの中でも特に注目度高い「ノーレイティング」と「360度評価」の2つをご紹介します。
4-1. ノーレイティング
「ノーレイティング(No Rating)」とは、ランク付けをしない人事評価制度です。
「ランク付けしない」と聞くと、役職(部長、マネジャーなど)のないフラットな組織をイメージする方もいるかもしれませんが、ここでいうレイティングとは役職のことではありません。
等級制度の項目でご紹介した「1等級、2等級、3等級…」の部分が廃止されるのが、ノーレイティングの特徴です。
海外では、従業員ごとに「A、B、C、D…」や「M1、M2、M3…」のように等級(レイティング)を分けていることが多いのですが、それらを廃止するのが「ノーレイティング」の人事制度です。
ノーレイティングを採用している有名な企業はGE(ゼネラル・エレクトリック)です。もともとは「9ブロック」という厳しいレイティング制度を採用していたGEが、一転ノーレイティングに踏み切ったことで、話題になりました。
※さらに詳しくGEの事例について知りたい方は「人事制度2020年代の最新トレンド傾向と事例3社に学ぶ取り入れ方」も併せてご覧ください。
4-2. 360度評価
一般的な評価制度では、評価を行う評価者は「上司」になります。
しかし「360度評価」では、上司以外の同僚・先輩・後輩・部下も、評価者になります。
上司から見える部分だけでなく、多面的に評価できるのが360度評価の強みです。働き方の多様化に対応して、評価の多様化を図りたいときに有用な方法として、注目されています。
※さらに詳しく人事制度のトレンドについて知りたい方は「人事制度2020年代の最新トレンド傾向と事例3社に学ぶ取り入れ方」も併せてご覧ください。
5. 人事制度を見直すべき3つのタイミング
「うちの会社の人事制度も、見直した方が良いのかな?」そんな風に迷うこともあるかもしれません。人事制度を見直すには、適したタイミングがあります。
本章では、人事制度の見直しをすべき3つのタイミングについて解説していきます。
5-1. 企業を成長させたいとき
前述の通り、人事制度は企業が業績向上を目指すための要(かなめ)の戦略です。逆にいえば、人事制度に問題のある企業が、大きな成長を遂げることはできません。
実際、成功企業の経営者のインタビューなどで、「急成長のきっかけとなった施策」として人事制度の改革が挙げられることも多くあります。
例えば、以下は2007年〜2010年の楽天株式会社の連結営業利益・EBITDAの推移です。
出典:2010年度通期及び第4四半期 決算説明会 – 楽天株式会社
右肩上がりの成長を続けていますが、楽天では2007年に新しい人事制度を導入しています。
特筆すべきは2007年の時点ですでに成果主義型の人事制度では「成果至上主義」に陥る危険性を認知し、中長期にわたって継続的に利益を出すためのプロセス(過程)重視の制度へ方向転換していることです。(参考:楽天株式会社:“成長したい人が成長できる”人事制度とは?)
このように、今後を見据えながら「成長のために必要な人事制度とは何か?」と問いながら変革していくことが、企業の継続的な成長につながっていきます。
5-2. 組織が拡大したとき(従業員数が増えたとき)
一方、業績向上や採用強化によって組織が拡大したタイミングでも、人事制度の見直しが必要になります。
というのも、「社員数が10人のときにうまくいっていた人事制度が、社員数が100人になってもうまくいく」ことは稀で、会社のサイズに合わせて人事制度も着替えていく必要があります。
一気に従業員数が増えるタイミングがあるなら、その先に起こり得る課題を先読みして、人事からできることを行っていきましょう。
- 海外スタッフの増加
- 若手社員の増加
- 女性社員の増加
など、従業員のバランスに変化が起きるときには、特に注意が必要です。今までの人事制度の「穴」を探すつもりで、十分に機能しないと予測される部分を補強していきます。
5-3. 社会環境が変化したとき
最後に、社内環境に変化は見られなくても「社会環境が変化したとき」には、人事制度の見直しを検討しましょう。
実際、2020年前後から人事制度の見直しを行う企業が増えています。これは2019年から始まった「働き方改革」の影響です。
社会環境が変化すると、従業員の意識も変わります。既存の人事制度に対して不満が多くなったり離職者が増えたりと、直接的な悪影響が出ることも珍しくありません。
さらに、採用過程で競合企業に競り負けてしまい、優秀な人材確保が難しくなることもあります。このようなケースでは、早めに人事制度を見直して、社会に適合させていく必要があります。
以上、人事制度を見直すべきタイミングについて解説しましたが、「見直しに着手したい」という方は次の章をご覧ください。
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6. 人事制度の見直し・改革・構築 4つのステップ
本章では「人事制度の見直し・改革・構築 4つのステップ」の概要をご紹介します。
6-1. ステップ①現状を把握する
1つめのステップは「現状を把握する」ことです。
- 管理職・マネジャー陣へのヒアリング
- 従業員のアンケート
- 離職率
- 生産性
- 業績との相関
これらの情報を収集して、現状を把握しましょう。
解決すべき課題はどこにあるのか、明確に洗い出してから、人事制度の見直しに着手することが大切です。
6-2. ステップ②人事制度の基本戦略を立てる
2つめのステップは「人事制度の基本戦略を立てる」ことです。
人事制度の設計に携わる上で重要な視点がひとつあります。それは「企業の経営方針を具体的な戦略として展開したものが人事制度である」ということです。
- 経営理念、ビジョン
- 達成したい目標
- 将来的に目指したい組織の形
これらを明確にしながら、どのような戦略で人材マネジメントを行っていくのかを練りましょう。その戦略を制度として表現したものが「人事制度」となります。
6-3. ステップ③等級・評価・報酬制度を策定する
3つめのステップは「等級・評価・報酬制度を策定する」ことです。この3つの制度は、相互にリンクしており影響し合っています。
3つのバランスを取りながら、矛盾が生じないように設計していくことが大切です。
6-4. ステップ④規定化し法的チェックを行う
4つめのステップは「規定化し法的チェックを行う」ことです。
人事制度を機能させるためには、規定として明文化し、社内に開示する必要があります。適切な情報開示が、従業員の人事制度への満足度を高めることを知っておきましょう。
明文化したら、法律面のチェックを専門家に依頼することも忘れないようにしてください。
※本記事では概要のみご紹介しましたが、さらに詳しく人事制度の設計について知りたい方は「人事制度を設計する手順とは?会社を成長させる戦略的やり方と注意点」 も併せてご覧ください。
7. 人事制度の改革を行う際の注意点
人事制度の改革を行うとき、失敗しないためにはどんな点に注意したら良いのでしょうか。本章では「人事制度の改革を行う際の注意点」を2つ、ご紹介します。
7-1. 安易に流行に乗るのは危険
失敗例として多いのが「トレンドの人事制度を導入してみたが、自社には合わなかった」というケースです。
本記事でもご紹介したように、社会情勢を意識しながら時代に合わせた人事制度へ改良していく姿勢は大切です。しかしながら、根拠なく安易に流行に乗ったり新しいトレンドを取り入れたりするのは、危険が伴います。
新たな制度には魅力もありますが、一方で、まだ見えていないリスクもあるのです。人事制度の改革は、従業員の生活に大きく影響しますので、慎重に行いましょう。
リスクをできるだけ軽減しつつ新しい刺激を組織にもたらしたいのであれば、「既存の制度はそのままに、新たな制度を追加導入する」という方法もあります。
例えば、従業員同士で少額の報酬を贈り合える「ピアボーナス」は、組織に新たな刺激を与えてくれます。
※ピアボーナスについて詳しく知りたい方は「Unipos (ユニポス)」のページをご覧ください。
7-2. 従業員の公平感と納得感を重視する
2つめの注意点は「従業員の公平感と納得感を重視する」ことです。これは人事制度のすべての面で重要な視点となります。
「自分だけ昇級できないのは不公平だ」
「評価の結果に納得ができない」
「同僚だけ給料が高いのは納得できない」
こういった人事制度に対する不満が組織内に蔓延すると、職場の雰囲気は悪化して、組織全体の生産性を引き下げてしまいます。
- すべての従業員にとって公平な制度になっているだろうか?
- すべての従業員が納得できる制度になっているだろうか?
そんな問いかけを繰り返し行うことが、従業員のモチベーションを向上させる優れた人事制度へとつながっていきます。
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8. 人事制度の基本を学び直せる3冊の本
最後に「さらに人事制度について学びたい」という方のために、基本を学び直す上でおすすめの本を3冊、ご紹介します。
8-1. 『中小企業の「人事・賃金制度」はじめに読む本』
出典:Amazon
1冊目は堀之内克彦著『中小企業の「人事・賃金制度」はじめに読む本』です。
中小企業向けに書かれた本で、「総図解」の表記通り、わかりやすい図表がふんだんに盛り込まれているのが特徴です。
短時間でざっくりと全体像を把握したい、人事制度の初心者の方におすすめです。
8-2. 『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。』
出典:Amazon
2冊目は労務行政研究所編『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。』です。
「すべての人事担当者の入門書」という位置付けの本で、人事の基本から雇用管理、人材育成に至るまで、基礎知識が体系的にまとめられています。
人事制度については以下の項目で解説されています。
- 人事制度の全体像
- 人事制度の運用
- 人事制度の体系
- 等級制度の概要
- 昇格・昇進管理
- 評価制度の概要
- 評価制度の運用
より詳しく人事制度について学びたい人におすすめです。
8-3. 『「人事・労務」の実務がまるごとわかる本』
出典:Amazon
3冊目は『「人事・労務」の実務がまるごとわかる本』です。
初心者から人事のベテランまでを対象とした実践本で、人事・労務に関わる知識が詰まっています。
人事制度のみならず、人事の仕事を総合的に学びたい人におすすめの本です。
9. まとめ
人事制度とは、企業が人材を管理するための仕組みで、次の3つの柱から成り立っています。
人事制度の目的は人的資源を最大限に活かすこと、役割は人を育て、やる気を引き出すことです。
今日の人事制度には、以下のような問題点が指摘されています。
①働き方の多様化への対応
②業務の高度な個別化
③成果主義型の人事制度の限界
新たに注目されている人事制度として、「ノーレイティング」や「360度評価評価」があります。
人事制度は、以下のタイミングで見直すと良いでしょう。
①企業を成長させたいとき
②組織が拡大したとき(従業員数が増えたとき)
③社会環境が変化したとき
人事制度の見直し・改革・構築は、次の4ステップで行います。
ステップ①現状を把握する
ステップ②人事制度の基本構想を策定する
ステップ③等級・評価・報酬制度を策定する
ステップ④規定化し法的チェックを行う
人事制度の改革を行う際には、以下の2点に注意してください。
①安易に流行に乗るのは危険
②従業員の公平感と納得感を重視する
人事制度は、組織のかなめとなる重要な制度です。
基本の知識を身に付けたら、ぜひ「より良くするためには、どうすれば良いのか?」という視点で、自社の制度と向き合ってみてください。それが、会社の成長の原動力となるはずです。
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