
360度評価とは、人事関係者だけでなく上司や同僚など社内で関わるさまざまな人から評価を受ける方法です。
多面的な評価により、公平性・客観性のある評価ができます。
本記事では、360度評価の目的やメリット・デメリットについて解説します。
コメントの例文や導入の手順、成功事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
360度評価とは多方面から評価すること
360度評価とは、人事関係者、上司、同僚など社内で関わる多くの人々が評価する制度です。
従来のような上司から部下への一面的な評価ではなく、さまざまな人による多面的な評価が行われます。
評価される従業員の納得を得やすいなどのメリットがあります。
ここでは、360度評価の目的や、実際の導入率についてみていきましょう。
360度評価の納得性を高める!従業員の見えない活躍を把握し評価が可能|Unipos
360度評価の目的
360度評価を行う目的は、主に以下の3つに分けられます。
- 公平に評価する
- 従業員のモチベーションを高める
- 人材を育成する
これまでの上司が部下を評価する方法は上司の主観や感情に左右され、人事評価エラーが起きやすいという問題があります。人事評価エラーとは評価者の思考や価値観などに影響を受け、正しく評価できない現象のことです。一例として、目立った特徴に引きずられてほかの評価が歪められるハロー効果や、評価が中間値に集中する中心化傾向などがあげられます。
360度評価は立場の異なる複数の社員が評価者となって評価をすることにより、このような人事評価エラーを防止します。そのため、評価の公平性・客観性の実現が可能です。
偏りのある評価では社員のモチベーションを下げてしまいます。努力しても正当な評価がされないのでは、働く意欲をなくすでしょう。複数の社員が評価を出し合うことで公平で客観性のある評価により社員のモチベーションも高まります。
また、360度評価は人材育成にも役立ちます。評価者の行動に対して客観的な気付きを伝え、自身では発見することができなかった課題点や新たな気づきに気づくことで、社員の行動が改善につながり成長できるでしょう。また、多面的な評価で得たデータにより人事担当は従業員について理解を深め、改善点を把握して適切な指導ができます。
360度評価の活用場面
360度評価の活用は、評価対象者の人事考課に反映させる方法と、能力開発に活用する方法、文化醸成を目指す方法があげられます。
人事考課に反映させる方法では、評価の査定基準が昇給・・昇進・賞与で定められます。一方で、評価の結果は給与や昇格と関係なく、能力開発を目的とする場合もあります。本人に360度評価の結果を知らせて気付きを促し、能力開発・自己啓発に役立ててもらう方法です。
このうち、給与や賞与などの査定に反映させる方法は、360度評価に向いているとはいえません。360度評価は上司と部下、相互の評価を行うため、評価が給与に反映されると、評価を意識して行動が制約される可能性があるためです。
360度評価は社風改善やマネジメント層の育成などを目的に導入されることも多く、給料に関わる評価とは切り離した運用が望ましいでしょう。
公平性・客観性の担保された360度評価を査定にも取り入れたい場合はまずは能力開発や人材育成など査定に影響しない形式で実施するのがよいでしょう。360度評価が社内に十分馴染み、順調に運用されるようになってから人事考課に取り入れていくという流れがおすすめです。
文化醸成に活用する方法は、組織内により良い文化を育むことを目的とします。企業理念・行動指針の浸透を図り、テレワークが普及する職場でも円滑な組織運営を図ることを目指すものです。
360度評価の導入率
360度評価の導入率は年々増加しており、2020年の調査では31.4%の企業が導入しているという結果が報告されています。今後も継続して実施、もしくは今後実施してみたい企業は50.4%と、全体の半数を占めている状況です。
2019年からは中央省庁の課長級以上が360度評価の対象となり、話題を呼びました。部下を指導するマネジメント能力の向上や、セクハラ・パワハラの防止につなげることを目的としています。
※参照元:リクルートマネージメントソリューションズ「360 度評価活用における実態調査 結果を発表」
360度評価が注目される背景
導入企業が増えている背景には働き方改革の推進があります。テレワークの普及により人事や上司のみでは評価しづらい状況になり、評価の材料として周囲の意見を取り入れる 360 度評価が必要とされているのです。
また、近年は少子高齢化による深刻な人材不足に悩む企業が多く、人材流出の抑止策としても360度評価が注目されています。360度評価制度は全従業員が評価に加わり、組織運営に関わるなかで帰属意識を高め、従業員エンゲージメントを向上させる効果も期待できるためです。
360度評価は人材育成の役割を果たすことも、導入する企業が増えている理由です。評価のフィードバックにより各従業員に気づきを与え、成長につなげられます。
また、360度評価では部下から上司への評価も行うため、マネジメント層の育成にも役立ちます。組織の活性化には管理職のマネジメント能力が不可欠であり、管理職の育成を目的に360度評価を導入する企業も少なくありません。
360度評価以外の人事評価方法
360度評価以外の主な人事評価方法として、目標管理制度(MBO・Management by Objectives)やコンピテンシー評価があげられます。
それぞれの内容や、360度評価との違いをみてみましょう。
目標管理制度(MBO)
目標管理制度はあらかじめ個人やチームで目標を設定し、達成度を評価する手法です。達成すべき目標の内容・期限が明確で、評価がしやすいというメリットがあります。
また、従業員が目指す目標を経営や部署の目標と連動でき、会社全体の業績向上につなげられます。
目標管理制度は業績評価に適した方法です。これに対し、360度評価は仕事に対する姿勢を評価する情意評価に向いているという点が異なります。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価は、「業務の遂行能力(コンピテンシー)」が高い従業員に共通する行動特性に基づいて評価項目を設定し、評価する手法です。
優れた従業員の行動特性に基づくことで評価のブレが生じにくく、業績向上につながりやすいのがメリットです。目標管理制度と同じく、業績評価に適しています。
人事評価制度については、以下の記事で詳しく説明しています。合わせて参考にしてください。
360度評価のコメントの書き方
360度評価の実施にあたって悩みやすいのが、コメントの書き方です。一般社員は評価に慣れていないため、どのようなコメントを書いたらいいのかわからなくなることもあるでしょう。
360度評価を導入するにあたってはコメントの書き方について決まりを設け、テンプレートにするなどの工夫が必要です。
ここでは、360度評価のコメントを書く際のポイントを解説します。
業務について記載する
360度評価は多面的に評価する手法であり、勤務態度や仕事への意欲などを見てその評価を記載します。どのようなことを伝えれば業務の改善につながるかを考え、コメントすることが大切です。
従業員の中には普段の作業を見ていない場合もあり、評価できない人もいるでしょう。そのため、評価項目には「どちらでもない」といった項目を設けることも必要です。
具体的な例や提案を記載する
評価は具体的に記載することが大切です。「頑張っている」「努力をしていない」など抽象的なコメントでは、評価を受けた従業員が何を改善して良いかわかりません。
良かったところ・悪かったところの具体例や、どのようにしたら良いかの具体的な提案をすることが必要です。また、改善点の指摘は理路整然と行い、感情を入れないようにしましょう。批判ばかりにならないことも大切です。
相手の気持ちになって読み返す
コメントは、受け取った側が読みやすいかという視点も重要です。正しい評価ができていても、伝わりにくい書き方ではコメントの効果を発揮できません。次の点を意識して書くようにしましょう。
- 結論から先に書く
- 長文にならないようにする
- 改善につながる評価をする
書き終わったら相手の目線に立って読み返し、伝わりやすい表現ができているか確認してください。
360度評価のコメント例文
360度評価は、以下の4つの形式で行われます。
- 上司から部下へ
- 部下から上司へ
- 同僚から同僚へ
- 自分自身に向けて
他社に向けて評価するだけでなく、自分自身の評価をすることが特徴です。
それぞれの評価でコメントするポイントは異なります。ここでは、各コメントで注意すべきポイントと例文を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
上司から部下へのコメント
役職についていない部下へのコメントは、業務のスキルや取り組みの姿勢を重視してコメントします。
一般社員は、自分の仕事をどれだけこなせるかという能力や仕事への熱意・モチベーションが評価の主軸であるためです。
モチベーションや熱意は日頃の業務を見ていないとわかりづらい部分で、日常的によく観察しなければなりません。コメントは成果だけをみるのではなく成果を出すまでのプロセスにも注目し、評価することが大切です。
顧客の来店時にいつも笑顔で接しており、気持ちの良い対応をしようとしている努力がみられる。顧客からは丁寧な接客への感謝の声が寄せられたこともあり、企業イメージの向上に貢献している
顧客を第一に考え、顧客目線の営業活動を行っている点が評価できる。顧客から「信頼できる」という評価も受けており、顧客との関係性が非常に良い
目標の数字は達成できなかったが、アポ取りの件数はチーム内で最も多く、顧客へ積極的にアプローチする姿勢は高く評価できる。今後は努力が数字に表れるよう、期待している
研修やセミナーに積極的に参加し、スキルアップに向けた向上心が高い。身につけた知識・スキルで今後の活躍が期待できる
目標の成約件数を達成したことは評価に値するものの、遅刻が多い点は改善を求めたい。チームメンバーとの協調性にも改善の余地があり、一層の努力が必要である
部下から上司へのコメント
部下から上司を評価する場合、部署全体を見て仕事をしやすい環境にするマネジメント能力に着目します。上司のマネジメント力により、自分にとって働きやすい環境になっているかが評価のポイントです。
マネジメント力の高い上司は部下の動かし方が上手で効率的に業務を進めるため、チームの成果も上がりやすい傾向にあります。また、人材育成の努力をしており、部下の成長が早いのが特徴です。上司がチーム全体に目を行き届かせているか、部下の育成に注力しているかを観察して評価しましょう。
上司への評価に慣れていないため、評価が好き嫌いなど主観的になることに注意が必要です。あくまでも上司の働きを客観的にみて評価しなければなりません。また、上司に気を遣うあまり良い評価だけしていては、評価の意味がなくなります。良い部分、悪い部分を見極めた評価が必要です。
メンバーの業務や進捗を把握しており、状況をこまめに確認してくれる。相談しやすく、問題が起きたときはすぐに対応してくれるため頼りがいがある
定期的にチームのミーティングを行い、部下の業務について把握している。個別にも進捗状況を確認し、問題はないか聞いてくれる。悩みごとも相談しやすい
セミナーやeラーニングなど、スキルアップに必要な情報を提供してくれる。業務に役立つスキルを身につけることができ、成長できていると感じる
全体情報などが伝わらず、別の場所から知らされることがある。情報はチーム全体に共有してほしい
担当の引き継ぎでは取引先まで同行してもらい、対応のコツなどを丁寧に説明してくれた。初めての営業でも問題なく商談ができ、助けられた
他部署との連携が必要な業務にはすぐに働きかけてくれるため、業務がスムーズに運ぶ
人手が足りず時間がかかっていた作業を効率化するため、システムの導入を会社に推奨してくれた。導入により作業時間が大幅に削減でき、残業をなくすことができた
同僚へのコメント
同じ立場の同僚を評価する場合は、一緒に働く際に感じることをコメントします。同僚の仕事で評価すべき点や問題と感じられる部分を評価します。
同僚は日頃一緒に仕事をしていることで評価に主観が入りやすく、個人的な感情で評価しないように注意しなければなりません。また、同僚の場合は馴れ合いで甘い評価になりやすいため、主観は排除して客観的な視点を持つことが大切です。
会議では積極的に発言してアイデアを提供しており、いつも仕事に対し意欲的に取り組んでいる点はほかのメンバーの見本になる
実務に活かすためにスキルアップへの意欲が高く、向上心がある。顧客からの信頼も厚く、感謝の声も届いている
忙しいときや業務で困ったことがあるときに声をかけてくれるなど、適切なフォローをしてくれる
社内イベントでは積極的に主催を務め、社内のコミュニケーションをよくするために尽力してくれている
チームの目標達成のために周りをよく観察し、作業がうまく進まない人に適切なアドバイスをするなど、助け合いの精神が強い
メンバーのスキルや特性をよく把握していて、共同作業する際は的確な業務分担をしてくれるため仕事がスムーズに運ぶ
人一倍責任感があり仕事熱心だが、一人で業務を抱える傾向がある。周囲に業務を配分することで負担が減り、全体の業務も効率的に進むのではないか
リーダーシップを発揮して周囲を牽引しようとする姿勢は評価できる。しかし、独善的な行動が目につくこともあり、もう少し周囲の意見を聞くことも必要だと感じる場面がある
自分自身へのコメント
360度評価では自分自身も評価します。自己評価を他社からの評価と比較し、これまで自分では気づかなかった弱みや強みを把握できます。新たな自分を発見して長所を伸ばし、弱みに気づいて改善することが可能です。
結果として仕事への取り組みや上司や同僚、部下との関わり方について考えを見直すなど、意識改革ももたらします。
営業成績が前年比150%を達成できた。会議の頻度を増やして情報を共有し、チームワークを高めたことが結果につながったと考えている
管理職に就いてから部下との信頼関係構築に努め、チームの結束力を高めることができた。その結果、成約率は前年より30%向上し、社内で1番の成績ということで表彰された
業務の効率化のためにシステムを開発し、作業時間の大幅短縮を実現できた。まだ作業効率の悪い業務が残っており、さらにシステムを拡充して部署内の残業時間削減に貢献したい
顧客満足度の向上を目標に掲げ、笑顔で接する・元気で挨拶をするなどを推進したところ、アンケートで満足度が94%と、前年を上回る数字を出せた
360度評価の導入によるメリット
360度評価を導入することで、主に以下のようなメリットを得られます。
- 公平で客観的な評価ができる
- 改善点が具体的に理解できる
- 自分の良い点がわかる
- 周囲を意識し、日頃の行動を是正できる
- 組織に対して当事者意識を持てる
- 組織の課題を把握できる
- ハラスメント対策ができる
360度評価は上司からの一面的な評価に比べ、公平で客観的な評価を実現できるのがメリットです。多面的な評価をもらった従業員は、具体的な評価により改善に努めることができるでしょう。
360度評価の導入によるメリットをご紹介します。
客観的に評価できる
上司が部下を評価する従来の方法では、上司に客観性が欠けていたり評価能力が不足していたりする場合、公平な評価ができない可能性があります。
複数の関係者が多面的に評価する360度評価であれば公平性を保て、評価対象者の納得を得やすいのもメリットです。
例えば、複数の評価者が評価項目で同一の評価を下した場合、評価の信頼性が上がり、従業員も受け入れやすくなるでしょう。公平な評価が行われている環境への信頼感も高まり、企業に貢献したいというエンゲージメントの向上も図れます。
改善点が具体的にわかる
360度評価では、関係者だけでなく評価対象者自身も自分への評価を行います。これにより他者からの評価と自分の評価を比較し、気づかなかった自分の具体的な改善点に気づけます。
これまでの上司のみが評価する方法は、評価に納得できない部下はフィードバックを受け入れて活用することが少ないという状況もありました。しかし、客観性の高い360度評価を受け入れた従業員は、明らかになった改善点に対し、自分を変えようと取り組み始めるでしょう。
自分の良いところがわかる
360度評価は改善点だけでなく、自分の良い部分も確認できます。他者と自己の評価が重なればより納得感を得られるでしょう。
人によってその人の見方は変わり、上司からしか見えない部分や同僚からしか見えない部分もあります。360度評価により異なる角度から見た自分がわかり、気づかなかった自分の特性を発見できる可能性もあります。
周囲を意識した行動がとれるようになる
上司だけが評価する方法では、上司の評価さえ良ければ待遇に結びつき、昇給や昇進できるという実情があります。そのため、上司の顔色をみて仕事をする従業員を生み出す弊害を伴うものでした。
しかし、360度評価は客観性が担保されているため、評価対象者は自身の行動に責任を持つようになります。改善すべき行動を自覚し、理想の姿に近づくために意識を変えることができるでしょう。
組織に対して当事者意識を持てる
360度評価では誰でも評価する立場に立つため、組織への帰属意識・当事者意識が高まるでしょう。自分の評価により相手が行動を見直し、改善に取り組む姿を見て、組織運営に自分が関わっていると感じられます。
当事者意識の高まりはさらに組織を良くするために何をすべきかを考えるようになり、エンゲージメントを向上させ、離職防止にもつながるでしょう。
組織の課題を把握できる
360度評価は、組織全体の課題を明らかにできるのもメリットです。ある評価項目で対象者全体の平均値が低かった場合、その項目は個人だけの問題ではなく、組織全体の課題であると考えられます。
例えば、「コミュニケーション」の項目で全体の平均が低い場合、その人自身の問題とはいえないでしょう。社内全体のコミュニケーションが不足していると考えられ、会社として活性化のための施策を講じなければなりません。360度評価の結果により、個人レベルではなく組織全体の改善も図れます。
ハラスメント対策もできる
360度評価では部下も上司を評価できるため、パワハラなどのハラスメント対策にも効果的です。お互いに評価をし合うことで行き過ぎた指導を是正でき、部下の要望を汲み取れます。
360度評価の活用によりハラスメントを早期に把握でき、社内のトラブルを可視化できるのもメリットです。
また、ハラスメントを事前にけん制し、防止に役立ちます。部下から評価されることで行動に注意するだけでなく、自分の行為はハラスメントにあたらないのかを考える機会が増えるでしょう。
360度評価の導入によるデメリット
360度評価はメリットの多い手法ですが、デメリットがあることも理解しておかなければなりません。デメリットな側面が全面に出てしまうと、導入しても失敗する可能性があります。
主なデメリットは、次のような点です。
- 自分の主観で評価しやすい
- 評価を気にした指導になりやすい
- 不信感が生まれやすい
デメリットについて、詳しくみていきましょう。
評価に主観が入りやすい
評価に慣れていない従業員が評価する場合、主観や好みが反映されやすくなります。誰に対しても何らかの好みや感情はありますが、それを評価に持ち込まないためには評価のスキルをしっかり身につけなければなりません。
360度評価を導入する前に研修を実施し、導入の趣旨や目的、評価方法や注意点などを説明することが必要です
評価を気にして厳しく指導できない
上司は部下からの評価を気にして、厳しく指導できなくなる可能性があります。マネジメント力を発揮するには厳しい指導も必要であり、部下に厳しくできない場合は組織力の低下を招く可能性もあるでしょう。
「厳しい指導は部下のことを考えてのこと」という認識ができる部下ばかりではありません。厳しさをパワハラと捉え、マイナス評価をする可能性もあります。
それを懸念して指導や人材育成がうまく行われないことを避けるため、「上司の評価には評価項目を限定する」「厳しい指導の趣旨が伝わるような対策を行う」などの取り組みが必要です。
不信感が生まれる可能性がある
360度評価は誰もが評価される立場になり、良い評価を得るための行動をとりやすくなります。差し障りのない対応になるなど、コミュニケーション不足による弊害が生じ、評価し合う関係性に不信感が生まれる可能性もあります。
特に同僚の評価では、無言の駆け引きが行われることも少なくありません。例えば、「お互いに良く評価し合う」「高く評価してもらったお礼に自分も高い評価をする」「低い評価を付けられたから自分も低い評価で返す」といった状況が考えられます。
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360度評価の導入に失敗した事例
360度評価の導入に失敗した事例もあります。主に起こりやすいのは、以下のような事例です。
- 評価やフィードバックに手間がかかり、現場の負担が増加して生産性が下がった
- 従業員同士で高評価をつける合意をした
- 360度評価導入の説明が十分に行われず、現場から不満の声が上がった
- 部下からの評価が気になり、以前のような指導ができなくなった
- 低評価を受けた従業員のモチベーションが低下し、離職につながった
- 費用対効果が確認できなかった
起こりがちな失敗を確認し、事前に対策を講じるとよいでしょう。
360度評価の導入失敗で起こる弊害については、以下の記事も参考になります。
360度評価の導入失敗で起こる弊害2つと失敗する4つの原因を解説
360度評価を成功させる3つのポイント
360度評価の導入に成功するには、押さえるべきポイントがあります。
以下の4点を確認しましょう。
- 目的を明確にする
- 明確な評価基準・ルールを設ける
- 実施からフィードバックまでの計画を立てる
- 従業員に説明する
まず、360度評価を導入する目的や評価基準・ルールの明確化が必要になります。運用のスケジュールを立てるとともに、従業員への説明も大切なポイントです。
目的を明確にする
360度評価ではすべての従業員が評価に関わるため、目的を明確にして説明することが大切です。目的を説明しないままに導入して従業員の理解を得られなければ、面倒な仕事が増えたと思われるだけです。
「公平な人事制度の確立」「従業員の成長と業務改善のため」「人材育成に活用する」といった目的を明確にし、会社・従業員の両者に利益のある制度であることを納得してもらいましょう。
明確な基準・ルールを設ける
実施方法や評価基準、評価項目などのルールも明確にしておく必要があります。評価基準やルールが曖昧なままでは評価者の主観が入りやすくなるでしょう。客観的な評価基準・ルールを設け、全従業員に周知徹底して公平な運用をすることが大切です。
評価項目や設問数は評価対象者に合わせて決め、評価項目はできるだけ少なめにすることがポイントです。評価項目が多すぎると評価者の負担が大きくなり、評価が丁寧に行われない可能性もあります。設問が少なすぎても正確な評価ができないため、業務に支障なく評価ができるよう、30問程度、10〜15分ほどで行える項目を設定しましょう。
実施からフィードバックまでの計画を立てる
基準やルールを設けるとともに、実施からフィードバックまでの計画を立てることも必要です。
スケジュールの一例は、以下のとおりです。
- 制度の説明会を開催する
- 評価の集計と返却を行う
- フィードバックを実施する
- 上司と面談して改善点や今後の行動について話し合う
- PDCAに取り組む
評価のフィードバックによりどのような改善をすべきかを各自が考え、PDCAを回して改善を重ねることで効果を発揮します。
スケジュールの内容は、自社に合うやり方で設計しましょう。
従業員への説明を実施する
スケジュールの一例で紹介した従業員への説明は、重要なポイントです。「会社が持つ課題と360度評価によりそれが解決されること」「導入には全従業員の協力が必要なこと」「従業員と会社の利益につながること」を説明しましょう。
経営トップや役員から呼びかけることも必要です。説明会では質疑応答の機会も設けて、疑問点が残らないようにしましょう。
説明会だけでは、質問ができなかったなど疑問が解消されない従業員が出てくる場合もあります。担当者を置き、個人面談を随時行うことも必要です。
評価に慣れず、誰かを評価することに抵抗を感じる従業員もいるでしょう。あるいは、同僚から評価されることにストレスを感じることがあるかもしれません。そのような抵抗感や不安を取り除き、360度評価の意義を理解してもらうことが大切です。
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360度評価の導入手順
360度評価の導入は、以下の手順で行います。
- 評価項目の作成
- 評価の実施
- フィードバック
評価項目の作成は、360度評価の成功を左右する重要な部分です。作成する評価項目は評価対象者によって異なります。
評価の実施では、まずトライアル期間を設けるとよいでしょう。最後に行うフィードバックも大切なプロセスです。
それぞれの内容を確認していきましょう。
評価項目を作成する
一般社員と管理職では役割が異なるため、評価項目の内容も異なります。それぞれの内容を見ていきましょう。
一般社員
一般社員の評価項目は、仕事に必要なスキル・仕事に取り組む姿勢が評価の中心です。成果も評価の対象ですが、結果だけでなくプロセスを重視した評価を行ってください。
評価項目の一例は、以下のとおりです。
業務遂行力 |
・業務上の課題を解決するまでのプロセスを理解し、最後まで実行できる ・適切な時間配分で作業を行っている ・与えられた役割に基づいて業務を実施している |
協調性 |
・困っているメンバーがいたら率先して支援している ・上司や同僚と良好なコミュニケーションをとっている |
主体性 |
・指示を待つのではなく、自分で考えて行動できている ・仕事の問題や責任を環境や他人のせいにせず、自分の課題としてとらえている |
解決力 |
・不測の事態に直面したとき、解決するために最善の方法を考え行動している |
向上心
|
・現状に満足せず、より成長するために学ぶ意欲がある |
コミュニケーション
|
・積極的に周囲の従業員と協力して仕事を推進できる ・積極的に周囲の従業員と話し、穏やかな雰囲気作りをしている |
管理職
管理職はマネジメント能力が求められるため、評価もマネジメント能力に必要なスキルについて評価を行います。
評価項目の一例は、以下のとおりです。
リーダーシップ |
・組織運営について中長期的なビジョンを持ち、メンバーに理解させているか ・組織や顧客、社会の利益について考え、先頭に立って行動している |
人材育成 |
・部下それぞれに適切な目標を設定し、支援を行っている ・部下の仕事に対し、公正な評価とフィードバックを実施している ・部下の能力や性格を把握した上で、計画的に育成を行っている |
判断力 |
・必要なときに決断をして意思決定を行い、業務を遂行している ・客観的に状況を判断し、決断することができている |
組織づくり |
・メンバーが目標に向けて行動し、成果を生み出す組織を作れている ・組織内の連携を助ける仕組みやコミュニケーションの場を設けている ・地位に関わりなく、他者の意見を認めている ・部下に幅広く仕事を与えている |
自己啓発 |
・部下の手本となれるよう、成長する努力をしている |
経営理念理解 |
・会社の経営理念や方針をよく理解している ・会社の戦略・ビジョンに共感している |
課題把握・体系化 |
・新しい情報を取り入れることに努め、活用している ・常にビジネス環境の変化を注視し、会社やチームの課題について考えている |
回答形式は、質問内容にどの程度あてはまるか、「どちらともいえない」を含めた3段階〜5段階による評価にするのが一般的です。
設問式回答のほか、コメント欄も設けます。設問式回答の理由を補完する役割をし、具体的な内容を伝えられます。前に紹介した例文を参考に、客観的な視点に立って記載しましょう。
評価の実施
社員への周知を終えて評価の実施に入ります。いきなり本番に入るのではなく、試用期間として一部の部署や対象者を限定してシミュレーションをしてみるとよいでしょう。
シミュレーションにより、実際に運用するとどのような問題が起こるかなどトラブルの予測ができます。期日通りに評価が提出されない、評価方法で迷う部分があるなどの問題を発見し、出てきた問題は解決しておきましょう。試用の段階で問題を解決しておけば、本番の運用もスムーズに進められます。
シミュレーションを終えたら、全体での運用を開始します。あらかじめ設計したスケジュールに基づき、計画的に運用していきましょう。本格運用では、慣れない従業員からの質問も相次ぎます。迅速に回答できる体制を整えておくことも必要です。
フィードバック
評価が完了したら、評価対象者にフィードバックを行います。必要に応じて、評価対象者の上司に対しても情報を提供します。改善点を伝える際には、改善方法に関する具体的なアドバイスを行いましょう。
フィードバックは、以下の点に配慮が必要です。
- 主観を排除して事実だけを伝える
- 評価ついて本人に考える余地を与える
- 具体的な改善ができるようサポートする
評価を渡して終わりではなく、フォローアップも大切です。課題の改善を個人の裁量に任せるのではなく、1on1ミーティングなど個別の面談を設けるなどして対応しましょう。評価の結果をどのように行動改善へとつなげていくかを話し合い、進捗を確認していきます。結果をもとにした研修の実施も効果的です。
フィードバックとフォローの体制は、各部署の上司とも擦り合わせを行いながら、事前にしっかり整えておくことが必要です。
360度評価を導入する際に注意したいこと
360度評価を導入するに際して、注意点を確認しておきましょう。評価はすべての従業員を対象にし、できれば経営層も含めることが公正性・客観性の高い制度にできます。また、評価得点を平均化する・匿名性を保つといった配慮も必要です。
ここでは、360度評価の導入において気をつけるべきポイントを解説します。
すべての従業員を対象にする
360度評価の対象はすべての従業員にすることが大切です。一部の従業員だけを評価するのでは公平性や客観性を保てません。対象を全従業員にすることで、客観的な制度にできます。
できるだけ従業員だけではなく、管理職や役員、経営者も含めたすべての人が対象となることで公平性が高まるでしょう。全社をあげた取り組みが、組織運営に関わっているという実感を与えます。また、普段は評価の対象とならない経営層に対する従業員からの評価は、今後の会社経営において有益情報になるに違いありません。
評価得点は平均化する
同じ対象者の評価でも、評価得点を集計するとばらつきがあることに気づくかと思います。「直属の上司や、いつも一緒に働いている同僚」と「普段はあまり関わらない業務をしている従業員」の評価は大きく異なる可能性があるでしょう。
公平な評価をするためには、評価の合計を集計して平均値を評価得点とすることが必要です。
匿名性に留意して実施する
360度評価の導入を成功させるには、匿名性も重要です。匿名性が確保されなければ、評価者は率直な評価ができなくなるでしょう。360度評価の信頼性を保つためにも、匿名性に留意した運用が大切です。
評価対象者には評価内容や点数についての他言を禁止し、フィードバックの際も誰からの評価かわからないように運用します。
継続的に行う
360度評価は継続的に行うことが重要です。特に人材育成の目的で導入する場合、継続しないとその後の行動改善につながらず、中途半端な結果になってしまいます。360度評価を行ったあとの変化も計測できないでしょう。
フィードバックにより今後の行動改善につなげるためには、できるだけ短い頻度で定期的に実施することが必要です。1年に1回以上、できれば半年に1回程度の実施が効果的でしょう。
定期的に行うためには、負担なく実施できるよう体制を整える必要があります。実施のポイントは以下のとおりです。
- 評価項目をわかりやすく、簡潔にする
- フィードバックを丁寧に行う
- フォローを必ず実施する
評価の実施は本来の業務と併用して行わなければならず、評価者の負担になります。そのため、解答は短時間で済み、集計やフィードバックも簡単にできる仕組みづくりが必要です。
360度評価を導入して成功した事例
近年は、大企業を中心に360度評価を導入している企業が増えています。導入の目的を果たし、成功している事例も少なくありません。
ここでは、いくつか導入に成功した事例を紹介しますので、ぜひ自社が導入する際の参考にしてください。
マネジメント能力の向上を目指す
住宅事業などを展開する大手企業A社では、管理職のマネジメント能力の向上を目的として360度評価を取り入れています。評価結果から現在の状態を正しく認識し、自身のアクションプランを描いて実践につなげられるようフィードバックを実施しています。フィードバックにより自身の強み・弱みを認識することで、行動改善や成長につながっているということです。
とはいえ、評価結果から本人に気づきを与えることはできても、その後のフォローについてはまだまだ課題があるのが現状です。そのため、最近ではフィードバックの解説書を配布し、初めて評価対象となった従業員には評価結果を読み解く研修を実施するなどの施策を講じています。
360度評価で企業理念を実現
生活用品の企画・製造・販売を行うB社では、自社の企業理念を実現するため、人事評価が重要な要素と位置づけています。そのため、不公平感が生じやすい人事評価の制度改革に取り組み、360度評価を導入しました。社長も含む全従業員が評価の対象という徹底した運用をしています。
制度の透明性と従業員の納得感を念頭に運用した結果、従業員からは「周囲からの評価について気づきになる」「自分の強み・弱みを謙虚に受け止められる」といった肯定的な意見が届くようになりました。
人事評価の信頼性を高める
360度評価は自治体でも取り入れられています。C県の自治体では管理職の育成と人事評価制度を補完するため、360度評価を導入しました。管理職は部下からのフィードバックにより新しい気づきを得られ、自身のマネジメントを客観的に認識できるようになったということです。
また、人事評価の結果について信頼性を高めるため、より厳格な評価方法を求めて360度評価を取り入れたという経緯もあります。制度設計を進めるなかで職員にアンケートを実施し、「上司を評価する機会を与えてほしい」という声が多く寄せられた結果、導入が決定されました。
導入にあたっては1週間の事前周知期間を設けて徹底周知し、導入後のアンケートでは「満足」という回答を多く得られたということです。評価を受けた管理職からは、「新たな気づきや刺激になった」という感想も得られています。
まとめ
360度評価について、メリットや導入のポイントなどを中心にお伝えしました。記事で紹介した内容は主に、以下の内容です。
- 360度評価の目的や注目される背景
- コメントの書き方や例文
- 成功のポイント
- 導入の手順
- 導入に成功した事例
360度評価は多面的評価により、従来の評価方法に比べて公平性・客観性のある評価を実現できるのがメリットです。従業員の行動改善につなげることもできるでしょう。
部下から上司への評価ができるため、管理職のマネジメント能力を養成するために導入する企業も増えています。自社の課題解決のために人事評価の見直しを考えている方は、360度評価の導入を検討してみるとよいでしょう。