称賛文化が形骸化する原因とは?導入に失敗する組織の共通点と立て直し方

サンクスカードを配った。ピアボーナスの仕組みを導入した。社内ポスターも貼った。——それでも、半年後には誰も使わなくなっていた。

称賛文化の導入を試みた企業の多くが、こうした「形骸化」を経験しています。ねぎらいや称賛が大切だと否定する人はいません。それでも続かない。問題は「やるべきか否か」ではなく、「なぜ続かないのか」にあります。

本記事では、称賛文化が形骸化する5つの構造的な原因を整理し、称賛の仕組みを定着させた企業の工夫を紹介します。「導入したけどうまくいかなかった」という方にこそ読んでほしい内容です。なお、これから称賛文化を始めたい方は、ねぎらいとはの記事からどうぞ。

社内コミュニケーションを促進する「ピアボーナス」とは?

目次

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  1. 称賛文化の導入が「うまくいかない」は珍しくない
    1. 「最初は盛り上がったのに…」が典型パターン
    2. 称賛の「必要性」は全員が認めている、でも続かない
  2. 称賛文化が形骸化する5つの原因
    1. ①経営層・マネージャーが自分ではやらない
    2. ②「ありがとうを言おう」だけで仕組みがない
    3. ③称賛を推奨しつつ、評価は数字だけ
    4. ④内容がマンネリ化する
    5. ⑤効果が見えないから経営層が関心を失う
  3. 形骸化した称賛文化を立て直す方法
    1. 称賛の「型」を作る——行動+インパクトのフォーマット
    2. 経営層の行動を変える——まずマネージャーから
    3. 効果を可視化して経営層に見せる
    4. テーマを定期的に入れ替えてマンネリを防ぐ
  4. 称賛文化を仕組みで定着させた企業事例
    1. 旭化成株式会社(千葉開発センター):安全報告をオープンな称賛の場に変え、月1,000件の自発的コミュニケーションへ
    2. コトヒラ工業株式会社:「改革の精神10か条」と称賛を紐づけ、管理職の「褒めるスキル」も向上
    3. バリュークリエーション株式会社:感覚頼みだったMVP表彰を、称賛データで定量評価に切り替え
  5. よくある質問
    1. Q. 称賛文化が形骸化しているサインは?
    2. Q. サンクスカードとピアボーナスはどちらが続きやすい?
    3. Q. 少人数の会社でも称賛文化は必要?
    4. Q. 称賛が「馴れ合い」にならないためには?

称賛文化の導入が「うまくいかない」は珍しくない

称賛文化の導入に取り組んだものの、数か月で投稿が減り始め、いつの間にか使われなくなった——こうした形骸化は決して珍しくありません。原因は個人の意識ではなく、仕組みと制度設計にあります。

「最初は盛り上がったのに…」が典型パターン

導入初月は投稿や声かけが活発に行われます。物珍しさもあり、タイムラインは賑わう。ところが3か月を過ぎたあたりから投稿数が減り始め、半年後には誰も使わなくなっている。

「導入時はあんなに盛り上がったのに」。人事担当者がこう振り返る場面は珍しくありません。最初の熱量が高かっただけに、形骸化したときの落胆も大きくなります。問題は、盛り上がりが自然発生的なものだった点。仕組みとして設計されていない以上、熱が冷めれば行動も止まるのは当然の帰結です。

これはサンクスカード、サンクスボード、社内SNS——どの形式でも同じです。仕組みだけ入れて運用設計を怠った組織で、繰り返されるパターンです。

称賛の「必要性」は全員が認めている、でも続かない

社内アンケートをとれば、「感謝や称賛はあったほうがいい」と答える社員が大半を占めるでしょう。つまり、意識の問題ではないのです。意識があっても行動が続かないなら、仕組みのほうに原因があると考えるべきです。

この視点を持つだけで、「もっと意識を高めよう」という精神論から抜け出せます。

称賛文化が形骸化する5つの原因

 

称賛文化の形骸化は、経営層のコミット不足・仕組みの設計ミス・評価制度との矛盾・マンネリ化・効果が見えないことの5つに集約されます。

①経営層・マネージャーが自分ではやらない

「部下には称賛を送れ」と言いながら、自分は一度も投稿しない。現場の社員はすぐに見抜きます。「本気じゃないな」と。

ミシガン大学ロス・ビジネススクール教授のキム・キャメロンは、「なぜ同じ逆境に直面しても、立ち直る組織と崩壊する組織があるのか」を研究した人物です。1990年代にアメリカで大規模なリストラが相次いだとき、キャメロンは苦境を乗り越えて業績を回復させた企業に共通点を見出しました。それは、思いやり・感謝・許しといった「組織の美徳」が根づいていたこと。この発見をもとに著書『Positive Leadership』(2008)を発表し、卓越した成果を出す組織に共通する4つの条件——「ポジティブな風土」「ポジティブな関係性」「ポジティブなコミュニケーション」「ポジティブな意味づけ」——を提唱しました。

なかでもポジティブな風土、つまり楽観・思いやり・感謝が日常的に交わされる環境の形成には、リーダー自身がその行動を率先して見せることが前提条件だとキャメロンは強調しています。上が動かなければ下も動きません。称賛文化の形骸化は、多くの場合「トップの無関心」から始まります。

②「ありがとうを言おう」だけで仕組みがない

「お互いに感謝を伝えましょう」。朝礼でそう呼びかけただけの運用は、長くて1か月で消えます。いつ・どこで・どう称賛するかの行動設計がないからです。

たとえば、専門職がそれぞれの案件に没頭し、隣の人がどんな仕事をしているかすら知らない組織を想像してみてください。このような環境で「ありがとうを言おう」と呼びかけても、そもそも称賛する対象が見えません。声かけだけでは仕組みにならない典型例です。

③称賛を推奨しつつ、評価は数字だけ

「称賛文化を大切にしよう」と掲げながら、昇給・昇格の基準は売上実績だけ。この矛盾に気づいた社員から、冷めていきます。

称賛に時間を使うよりも、自分の数字を追ったほうが評価される——合理的に考えれば当然の判断です。「称賛を送っても1円にもならないのに、なぜやるのか」。この疑問に答えられない限り、現場は動きません。

制度と文化が矛盾している限り、称賛文化は「建前」としか受け取られません。立て直すなら、評価制度そのものを見直すか、少なくとも称賛行動を評価に反映する仕組みが必要です。

④内容がマンネリ化する

「いつもありがとう」「お疲れ様です」。最初は嬉しかったメッセージも、同じ文面が繰り返されると次第に響かなくなります。受け取る側も、送る側も惰性になっていく。

前述のキャメロンも、ポジティブなコミュニケーションの条件として「否定的な言葉より肯定的な言葉を3倍以上使うこと」、そしてその肯定が「具体的であること」を挙げています。「あなたが先週の打ち合わせで出したアイデアのおかげで、提案書の方向性が固まった」と言われれば嬉しい。でも「いつも頑張ってるね」では、何のことかわかりません。

原因は、「何をどう称賛すればいいか」のフォーマットがないこと。「行動+その影響」をセットで伝える型がなければ、どうしても当たり障りのない表現に流れます。そして当たり障りのない表現は、受け取っても心が動かないのです。

⑤効果が見えないから経営層が関心を失う

投稿数は追えても、エンゲージメントや離職率との相関が見えない。すると経営層から「で、称賛文化って何が変わったの?」と問われ、答えられずに予算が削られる。

称賛施策は「やったほうがいい」レベルの施策から脱却できないまま、静かにフェードアウトしていく——このパターンは業種を問わず頻発しています。

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形骸化した称賛文化を立て直す方法

形骸化した称賛文化を立て直すには、称賛の「質」を設計し直すことと、経営層に効果を数字で見せることの2つが鍵です。

称賛の「型」を作る——行動+インパクトのフォーマット

「ありがとう」ではなく、「○○さんの△△という行動のおかげで、□□が実現した」。この型を全社に共有するだけで、称賛の質は一変します。

たとえば「経理の○○さんが月末の締め作業を前倒しで完了してくれたおかげで、営業チームが翌月1日から提案活動に入れた」。ここまで具体的に書かれた称賛は、送られた側だけでなく、読んだ第三者にとっても「良い行動とは何か」の学びになります。

さらに、行動指針のハッシュタグと紐づけると効果的です。たとえば「#顧客第一」「#挑戦」といったタグを称賛に付けることで、どんな行動が組織で評価されるのかが可視化されます。称賛が行動指針の浸透ツールにもなるわけです。行動指針の作り方や浸透の進め方については、行動指針とはの記事も参考になります。

経営層の行動を変える——まずマネージャーから

称賛の主語を「経営層」にする。ここが最大のレバレッジポイントです。

具体的には、週1回マネージャーが必ず1件の称賛を送るルールを設ける。加えて、経営会議で称賛データをレビューする習慣をつくる。上が動けば、現場の温度は確実に変わります。

ここで大切なのは、形式的にノルマを課すのではなく、マネージャー自身が「本当に良いと思った行動」を称賛する点です。義務感からの投稿は文面に出ます。逆に、マネージャーが心から称賛している投稿はタイムライン上で目を引き、「うちの上司はちゃんと見てくれている」という安心感を生みます。

旭化成千葉開発センターでは、安全報告の仕組みをUnipos上に移行した際、報告に対して周囲が称賛や改善提案を返すフローが自然に生まれました。報告する側が「見てもらえる」「称賛される」と実感できたことで、月の投稿数は約1,000件にまで拡大。リーダーや周囲が反応する仕組みをつくることが、行動を継続させる起点になります。

効果を可視化して経営層に見せる

称賛データとエンゲージメントサーベイ、離職率をクロスで分析する。「称賛を受けた回数が多い社員は離職率が低い」「称賛が活発な部署はエンゲージメントスコアが高い」——こうしたデータが出れば、経営層の関心は一気に戻ります。

逆に、投稿数だけを追いかけても説得力は生まれません。「今月は200件投稿がありました」と報告しても、「それがどう業績に効くの?」と返されて終わりです。称賛データを組織課題の指標と掛け合わせて初めて、経営の意思決定に乗るレベルの情報になります。

感覚ではなく数字で語れる状態をつくること。それが称賛施策を「あったらいいもの」から「経営に必要な仕組み」に格上げする条件です。エンゲージメントの測定方法については、エンゲージメントを高める方法もあわせてご覧ください。

テーマを定期的に入れ替えてマンネリを防ぐ

月替わりで「今月の称賛テーマ」を設定するのも有効です。「今月は部門横断の協力を称賛しよう」「今月は新人のチャレンジを見つけよう」——テーマが変わると視点が変わり、称賛のマンネリ化を防げます。

一定の運用期間を経た組織であれば、テーマの設定自体を現場のメンバーに委ねるのもよい方法です。「自分たちで称賛文化をつくっている」という当事者意識が、持続の原動力になります。Uniposでは、こうしたテーマ別の投稿キャンペーンを設計・運用できる仕組みが用意されており、マンネリ防止の施策として活用する企業が増えています。心理的安全性が確保されていれば、こうした自発的な動きは自然に生まれやすくなります。

称賛文化を仕組みで定着させた企業事例

称賛文化の定着には、組織の課題に合わせた仕組みの設計が欠かせません。ここでは、それぞれ異なるアプローチで称賛の仕組みを根づかせた3社の事例を紹介します。

旭化成株式会社(千葉開発センター):安全報告をオープンな称賛の場に変え、月1,000件の自発的コミュニケーションへ

旭化成千葉開発センターは、専門性の異なる7つの組織が集まる拠点です。安全管理の一環として1人当たり月3件のSTOPカード(ヒヤリ・ハット報告)を運用していましたが、従来の仕組みでは報告が限られた範囲で処理され、拠点全体への横展開がほとんどできていませんでした。

同センターはこの課題を解決するため、STOPカードの報告をUnipos上で共有する運用を開始。報告が拠点全員のタイムラインに流れるようになったことで、ある社員の「施錠をお願いする声かけをしてくれた」という称賛投稿をきっかけに、部署を越えて同じ行動が自然に広がるといった変化が生まれました。

結果、月の投稿数は約1,000件にまで拡大。1人3件だったSTOPカードの件数も4件近くまで増加しました。安全報告に加え、日常の感謝・称賛も活発化し、「誰かの仕事」だった課題に自発的に手を挙げるメンバーも増えています。報告の仕組みを「全員が見えるオープンな場」に変えたことで、安全意識と組織の一体感を同時に高めた事例です。

▶ 詳細はこちら:旭化成株式会社の導入事例

コトヒラ工業株式会社:「改革の精神10か条」と称賛を紐づけ、管理職の「褒めるスキル」も向上

設立80年の地方製造業、コトヒラ工業株式会社。2020年の社長交代を機に「改革の精神10か条」を策定し、組織風土の改革に着手しました。ただ、製造現場ではデジタルツールへの抵抗感もあり、10か条をどう日々の行動に結びつけるかが次の課題でした。

転機は、Uniposの「ラベル機能」を活用した運用設計です。10か条の各項目をラベルとして設定し、称賛メッセージに紐づけて送る運用を開始しました。「○○さんのこの行動は、10か条の"挑戦"そのものだ」——こうした投稿が全社に流れることで、壁に掲示されているだけでは届かなかった10か条が、具体的な行動として共有されるようになったのです。

管理職にも変化が生まれました。当初は「褒めること」に慣れていなかった層も、Uniposを通じて部下の良い点を探す視点が定着。指導後のフォローに活用するなど、厳しさと称賛を両立するマネジメントスキルへと進化しています。10か条を「掲げるもの」から「日常で体現するもの」に変えた事例です。

▶ 詳細はこちら:コトヒラ工業株式会社の導入事例

バリュークリエーション株式会社:感覚頼みだったMVP表彰を、称賛データで定量評価に切り替え

マーケティングDXや不動産DXなど複数の事業を展開するバリュークリエーション株式会社。同社には社員の発案から生まれた「月間MVP制度」がありましたが、選出方法が部門内の推薦方式だったため、どうしても定性的な判断になりがちでした。隠れた貢献や活躍をもっと可視化して表彰したい——その思いからUniposを導入しています。

導入後、当初はUniposで最もポイントを集めた人をMVPに選出していましたが、それだけでは偏りが出ることがわかりました。そこで選出基準を「一番投稿数が多い人」「一番投稿された人」「一番拍手した人」「一番拍手数の多い投稿をもらった人」など5項目に分散。たとえば「一番拍手数の多い投稿をもらった人」は、期間中にたった一度でも強く感謝される行動があれば候補に入るため、普段は目立たない社員にもチャンスが生まれます。

さらに同社では、上司が部下を叱った後のフォローにもUniposを活用。全員が見えるタイムライン上でフォローの投稿をすることで、チームの関係性を保ちつつ心理的安全性を高めることにも成功しています。称賛データを表彰制度と連動させ、「感覚で選ぶ表彰」から「データに基づく表彰」へ進化させた好例です。

▶ 詳細はこちら:バリュークリエーション株式会社の導入事例

▼ 称賛文化の設計と定着の進め方をまとめた資料はこちら
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よくある質問

Q. 称賛文化が形骸化しているサインは?

投稿や声かけの内容が「いつもありがとう」一色になっている、特定の人しか投稿していない、導入当初に比べてアクションの頻度が半分以下に減っている——こうした状態が見られたら形骸化のサインです。数字の変化だけでなく、「内容の画一化」にも注意を向けましょう。

Q. サンクスカードとピアボーナスはどちらが続きやすい?

紙のサンクスカードは手軽に始められる反面、データが残らず効果検証が困難です。また、記入・回収の手間が負担になり、継続率が下がりやすい傾向があります。「書く時間がない」「引き出しに溜まるだけ」という声が出始めたら黄信号です。ピアボーナスはデジタルで記録が残るため、投稿傾向の分析やエンゲージメントとの相関が見える点で持続性に優れています。どちらを選ぶかは組織のITリテラシーや文化によりますが、効果測定を前提にするならデジタル型が有利です。

Q. 少人数の会社でも称賛文化は必要?

むしろ少人数組織のほうが効果を実感しやすいケースもあります。全員の顔が見える規模だからこそ、称賛が直接的にモチベーションや帰属意識に影響します。「誰かが見てくれている」という感覚は、10人の組織でも1,000人の組織でも変わらず大切です。ただし、少人数だと「誰が誰に送ったか」が透けやすいため、義務感やプレッシャーにならない運用設計が大切です。

Q. 称賛が「馴れ合い」にならないためには?

称賛のフォーマットに「具体的な行動」と「その影響」を含めるルールを設けると、馴れ合い化を防げます。「なんとなく良い人」ではなく「この行動がこう役立った」という事実ベースの称賛は、受け取る側にとっても成長のフィードバックになります。行動指針と連動させることで、組織が求める行動基準の共有にもつながります。